フリッツ・ブッシュ 指揮
ローエングリン:ラウリッツ・メルヒオール
昨日の朝、日の出前後に目が覚めたらすぐ近くで鶯の鳴き声がきこえました。試し鳴きでもしているかのように「ホー」の部分と「ホケキョ」の部分に間があいて、最後は「ホケキョキョ」と我々人間が覚えているフレーズとは違う異稿が聴こえてすぐに鳴きやみました。先週は天ケ瀬ダム下流の方を通った際に車を止めて外へ出たら(立ち・ヨンでも、野・・のためでもない)、山の方から鶯の声が盛大にきこえていて今年は早いかなと思ったところでした。
これは FONIT CETRA から出ていたオペラ・ライヴのシリーズの一つです。第二次大戦後間もないニューヨークのメトロポリタン歌劇場でのローエングリンの公演です。何度かCD化されたようですがたまたまチェトラのLPが見つかったので、ラウリッツ・メルヒオール(Lauritz Melchior 1890年3月20日,コペンハーゲン - 1973年3月19日,サンタ・モニカ)のローエングリンということもあって購入していました。今回モノラル用カートリッジを付けてそこそこうまく調整できたので一気に聴きました。LP四枚組ながら所々カットがあるようです。この年代なので音質は仕方ないとして、それでも独唱は鮮明に聴こえています。
主要キャストではやっぱりメルヒオールが際立っています。後年のローエングリン役でコロ、ホフマン、クラウス・フロリアン・フォークトあたりの声質を聴いていても圧倒的に魅力的です。ジークフリートやトリスタンが似合う硬く強い声、これぞヘルデンテノールという部分だけでなく甘い美声という面も感じ取れるのが魅力です。ドナルド・キーン氏の著作で紹介されていたメルヒオール、実はドイツではなくデンマーク出身で、1926年からメトロポリタン歌劇場でワーグナー歌手として活躍しました。
それ以外のキャストではエルザのヘレン・トローベルは原作のエルザより年上でタフな印象を与えるものの立派な歌唱です。女声では彼女よりもオルトルートのマーガレット・ハーショウの方が目立っていました。男声ではテルラムントのオジー・ホーキンスの声がちょっと優男風な声質なのが面白くて、おかげで舞台を観ていなくても歌唱で人物を聴き分けられそうです。オーケストラの方は割と速目で進んで行きますが、もう少し音質が良ければと思いました。
フリッツ・ブッシュ(Fritz Busch 1890年3月13日 - 1951年9月14日)という名前は20世紀前半のドイツ語圏の楽団の話題に名前が出てくる他、グライドボーン音楽祭でのモーツァルトのオペラがCD化されて有名でした。19世紀後半生まれの巨匠らと年齢はどれくらい違うのか覚えてなかったところ、クレンペラーよりも5年、クナより2年若いくらいでした。ただ、LPレコードが盛んになる前に急逝したので残された録音が限られているのが惜しいところです。ケルン音楽院で学んだ後、リガ、アーヘン、シュトゥットガルトの劇場の後、1922年にドレスデンの音楽監督を務めました。1933年以降はナチを嫌って国外へ出たという点はエーリヒ・クライバーと同様でなかなかの信念の人のようです。