210220aヴェルディ 歌劇「リゴレット」

アンジェロ・クエスタ 指揮
RAIトリノ交響楽団
チェトラ合唱団

マントヴァ公爵:フェルッチョ・タリアヴィーニ (T)
リゴレット:ジュゼッペ・タッデイ (Br)
ジルダ:リーナ・パリューギ (S)
モンテローネ伯爵:アントニオ・ゼルビーニ(Bs)
スパラフチーレ:ジュリオ・ネーリ (Bs)
マッダレーナ:イルマ・コラサンティ (Ms)
チェプラーノ伯爵:マリオ・ジャコビーニ (Bs)
ジョヴァンナ:ティルデ・フィオーリオ (A)
マッテオ・ボルサ:トマゾ・ソレイ (T)
マルッロ:アルベルト・アルベルティーニ(Br)
公爵夫人小姓:イネス・マリエッティ (S)、他

(1954年2月 トリノ 録音 preiserrecods/Cetra)

210220 先日、夏目漱石の「虞美人草」の中に「京の春は牛のいばり(尿)の尽きざるほどに、長くかつ静かである」という一節があると聞いて、そもそも虞美人草も読んだことはないので電子書籍をダウンロードして読み始めたところ、最初の方で比叡山に上るところで出てきました。虞美人草は漱石が職業作家、小説家として書いた第一作だそうで、この作品でぐんと飛躍してこれ以後と以前では作品の質が違うということのようでした。自分自身では「吾輩は猫である」、「坊ちゃん」しか漱石の作品を全部読んだことはなく(多分そのはず、何も記憶に残っていない)関心は薄い方でしたが、ヴェルディにおけるリゴレットと同じと言われると俄かに気になってきました。なお、登場人物の小野は厨川白村をモデルにしたと解説に出ていましたが、受験の現代国語の問題文に厨川白村は台湾では戦後もよく読まれているという文章が出てきました。そういうわけでたまたまプライザーのオペラ復刻シリーズの中にタリアヴィーニが出ているリゴレットを見つけたのでさっそく聴きました。

210220b これはRAIが放送用に録音したオペラの全曲盤シリーズの一つで、このリゴレットはLPでも何度か発売されたものでした。CD二枚目の末尾にはタッディが他の作品のアリアを歌ったものがボーナストラックとして入っていました。しかし特に印象が強かったのはマントヴァ公爵のタリアヴィーニで、第一幕の「あれかこれか」の軽やかで余裕のある歌唱が他の、その後の有名歌手による歌とは違う、独特の公爵といった印象です。個人的にリゴレットは好きな歌、部分はあるものの、作品全体となるとアクの強さ、くせのあるにおいが気になって、例えば関西で来日公演があったとして演目がリゴレットだったら行こうかどうか迷うような作品でした。しかし、この録音はマントヴァ公爵=タリアヴィーニの印象の影響で、作品に対する印象も変わります。過去記事の中でタリアヴィーニを扱った回は同じシリーズのボエームがありましたが、印象の強さは今回のほうが強烈でした。

 聴き易いと言えばなにか薄めたようなものということになりそうですが、そんなことはなくて、オーケストラ、指揮のアンジェロ・クエスタも絶妙なのだろうと思います。リゴレットのタッディも強烈で、日本に置き換えれば公家・お歯黒的なタリアヴィーニのマントヴァ公爵に対して武士の親玉のような屈強さを思わせて対照的な声です。しかし力が入り過ぎて硬いということはなくて、第一幕の「おれを呪いやがったな(オイコンジュラーと聴こえる)」あたりもちょうど良いくらいです。ジルダのリーナ・パリューギは四十代半ばだったそうですが、16歳という設定のジルダに似つかわしい声が印象的です。この三人以外も聴いているだけで区別し易い歌手が多くて素晴らしいと思いました。

 ヴェルディやプッチーニもレコーディングとなると国際的に活躍する有名な歌手が参加することが増えて、DGのスカラ座のシリーズではクーベリック指揮でリゴレットはフィッシャー・ディースカウが歌っていました。今回のものはそれらよりも少し古い1950年代前半の録音でした。国内のラジオ放送用の録音ということだと思いますが、21世紀の現在に聴いていると妙に惹かれるものがあります。このCDは墺プライザー以外に何度か国内盤仕様で発売されたことがあるようです。