オットー=クレンペラー 指揮
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ダニエル・バレンボイム:ピアノ
(1967年10月10-11,14日 ロンドン,Abbey Road 第1スタジオ 録音 EMI SLS941-4)
先日、休刊が決まった月刊誌・レコ芸の最新刊を一日遅れで購入しました。厚さは前月と変わらずで、親父さんが定年退職日なのに普段通りに弁当を持って何ら変わらない様子で出勤するという、さだまさしの「退職の日」を思い出させる7月号でした。記事の中には没後50年のクレンペラー特集があったけれど目新しいことは載っていなかったのはやむを得ないところです。レコ芸に初めてクレンペラーをまとめて扱った回の記事を抜粋とか、そういう手間のかかりそうなことは無理なのでしょう。思い返せば中高生の頃は記事と同じくらい広告、それも販売店の広告に注目していました。「クレンペラー イン トリノ」とか「モノラル時代のクレンペラー」というLPの広告は初めて見た時は有り難く、刺激的でした(後者はEMIのベートーヴェン第3、5、7番、買えなかった)。さて、六月も半分以上が過ぎて今年もクレンペラーの命日が近付いてきました。
このLPはクレンペラーとバレンボイムによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全部と合唱幻想曲をまとめた箱物セットの初期盤です。一連の録音は曲ごとに順次発売されたはずなので、それらの後に発売されたもののようです。ちょうど第5番だけは最近最新のリマスターでLPが再発売されたところですが、改めて初期盤を聴くとやっぱり良い音で、特に今まで以上にピアノの音が素晴らしいと思いました。クレンペラーとバレンボイムのベートーヴェン、正直な感想としてはピアニストを替えた方が良い、くらいでした(バレンボイム弾き振りのモーツアルトは素晴らしいけれど)が、今回初期盤でこの第3番と第4番を聴いてみるとそういう感想は覆り、オーケストラ共々立派だと思い、他のピアニストと交替しなくても共演、機能していると思いました。
これを録音した時期はマーラー第9番を取り上げ、ユダヤ教に復帰してイスラエルに対する思いが高まっている頃だったので、ユダヤ系の若手、バレンボイムに白羽の矢が立ったという側面もありそうです(それに何かとトラブルが頻発するクレンペラーのことなので年齢差が大きければ共演ソリストも我慢するだろう)。そういうことよりも演奏が全く立派で、作品の格が上がるような印象です。ピアノ協奏曲の第3番は冒頭から作曲者より前の世代の作風を思わせるものですが、ここでは紛れもなくベートーヴェンの世界そのもの(作曲家でも同時代人でもないのに不遜な言い方)です。
今年になって没後50年を記念してクレンペラーの有名録音のLPが再発売されています。厚目の重量盤、最新リマスターと称していて(広告:オリジナル・マスターテープより、2023年最新リマスター音源によって、180gアナログLP盤として)、マーラーの第2番を聴いた印象では確かに音質は良いものの、気のせいか何となく音が痩せたようで、特に低音はそんな気がしました。あと、「リマスター・エディション(シンフォニック&協奏曲作品録音全集)」という通常CD(SACDではない)の箱物がありました。これも没後50年企画で未発表音源も少しだけ入っています。その中でベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を聴いてみたら意外な程に音が良くて、どちらもごく一部しか聴いていないけれど、広告にあった「マスターテープより2023年最新リマスター音源」の実力なのか、EMIがワーナーに併呑される際に出た箱物に比べて確実に音が良くて驚きました。