オットー=クレンペラー 指揮
山上たつひこという漫画家、小説家は「光る風」、「かぎデカ」等の漫画で有名でした。その二作品は作風が全く異なるので、がきデカとか新喜劇思想体系に転換した際には作者に何が起こったのかと不思議におもう程です。シリアスな内容の「光る風」は劇画「ゴルゴ13」で国際問題を学んだとうそぶく某大臣にはいま一度読んでほしいような作品です。その山上作品のなかで「蟇蛙 祈るかたちに 枯れつくす」という俳句が出てきました。作者自身の句なのか有名な俳人のものなのか分かりませんが、お彼岸に墓地へ行った時に墓石の下に小さな青い花の雑草があったり、枯れつくしてはいないものの葉が茶色になった雑草あって、不意にその得体の知れない俳句を思い出しました。お墓の雑草はいつもなら全部むしり取るようにしていますが、花が咲いているとちょっと遠慮してしまい、花のある草は残して帰りました。
これはタワーレコードの企画でSACDハイブリッド仕様に復刻されたクレンペラーの録音集の一つで、ドヴォルザークの新世界交響曲、ワイルの小さな三文音楽からの組曲、クレンペラー作曲のオペラ「ゴール(目的地)」のメリー・ワルツが入っています。この新世界が録音された1963年のクレンペラーは前年の極度の鬱状態(20キロ以上体重が減ったとか)から復活して心身ともに壮健だった時期だそうで、ウィーン芸術週間にフィルハーモニア管弦楽団を連れて参加した1960年以来の好調シーズンだったかもしれません。ちなみに鬱に苦しんだという1962年はフィラデルフィア管弦楽団へ客演した年で、その公演もCD化されています。
既に何度かCD化されたものながら、このシリーズでSACD化される際のリマスターの具合からか、中には目の覚めたような鮮烈さに蘇ることもあるので注目しています。実際にSACD(2chのみ)層を聴いてみると、各パートがよくききとれる解像度というのか分離度にちょっと驚かされて、この新世界はこんな風にきこえていたのかと驚きました。元来クレンペラーのEMI盤はそういう傾向がありましたが、1959年(火傷休養以後)のいよいよ遅くなるテンポの効果も相まってそういうスタアイルによる美点が前面に出てきます。クレンペラーがアメリカ時代にこの曲を演奏した時はかなり速いテンポで荒っぽい演奏だったそうです。下記のように代々のチェコ・フィルによる新世界交響曲の演奏時間と比べて、クレンペラは合計で4分以上長くなり、ラルゴ楽章はターリヒやノイマンより短めになるのもクレンペラーらしい特徴です。
クレンペラー・PO/1963年
①12分39②12分07③8分34④12分17 計45分37
クレンペラーのドヴォルザーク・新世界は当然本場ものではないので、この作品の定番とは言えませんが一定の評判をとっていました。クレンペラーはどのレパートリー、作品でも例えば幻想、悲愴といった標題、固定化した作品のイメージのようなものにこだわらず、むしろあえてそれらを否定するなり無視するようなやり方で演奏していました。過去記事にも引用しましたが、国内盤ヘンデルのメサイアの解説書に新世界の録音時の話が載っていました。第1楽章の冒頭部分は “ Swing low, sweet chariot ” の主題までゆっくり、段々とテンポをあげて演奏する慣習があったところ、楽譜にはそのような指示はないとしてクレンペラーはそれに従わず、最初から同じ速さであっさり演奏させています。最初に演奏した際には団員が慣習に従ったけれどクレンペラーが改めさせたということでした。