1308リムスキー=コルサコフ 歌劇「金鶏」

ディミタール・マノロフ 指揮
ソフィア国立歌劇場管弦楽団
ソフィア国立歌劇場合唱団

シェマハの女王:エレナ・ストヤノヴァ(S)
ドドン王:ニコライ・ストイロフ(B)
グヴィドン王子:リュボミル・ボドゥロフ(T)
アフロン王:エミル・ユグリノフ(Br)
ポルカン大臣:コスタ・ヴィデフ(B)
金鶏:ヤウオラ・ストイロヴァ(S)
女官長アメールファ:エフゲニア・ババチェヴァ(MS)、他

(1985年 ソフィア 録音  Brilliant-CAPRICCIO)

 このCDのパッケージは極道の代紋のように金ぴかの浮き彫りが目を引きます。でも図柄が鶏なのでどこかしら長閑な感じです。別にその金ぴかの鶏に惹かれて購入したのではなく、超廉価・BrilliantのCDだったのですぐに絶版になると思ってのことでした。リムスキー・コルサコフの最後のオペラ「金鶏」は、1907年に作曲されて作曲者の没後の1909年にモスクワで初演されました。原作はプーシキンで、ウラディーミル・ベリスキーが台本化しました。金鶏は昔テレビでやっていた「漫画世界昔話」で観た覚えがあるので、ひな形になる民話があったのかもしれません。物語は架空の国の王と王子が皆死んでしまい、国民だけが残るという内容なので体制批判とみなされて検閲にひっかかりました。

 リムスキー・コルサコフはムソルグスキーのオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」や「ホヴァンシチナ」の編曲、補筆完成によりそれらの作品の普及に貢献したものの、現代では評判が悪くショスタコーヴィチは手厳しくそれらの仕事を批判していました。一方でR.コルサコフ自身もオペラを14曲程完成させています。1926年にロシアで発刊されたカンカロヴィチの「オペラの手引き」の中でオペラのベスト12としてピックアップされた作品の中にこの「金鶏」も入っています。ロシアのオペラはそれ以外にリムスキー・コルサコフの「五月の夜」、ムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」、チャイコフスキーの「スペードの女王」、「エウゲニー・オネーギン」、グリンカの「ルスランとリュドミラ」と計6作品です。

 ロシア以外の作品は以下の六作品でした。「セビリアの理髪師」、「椿姫」、「ファウスト」、「カルメン」、「ローエングリン」、「サロメ」。当時のロシアの好みを反映していて面白いと思いますが、「金鶏」もそれだけ立派なオペラとして認知されていたわけです。

 実際に聴くと、帝国の風刺、体制批判といった背景よりも音楽、歌だけでも魅力的です。プロローグ、第一~三幕、エピローグから構成され、冒頭のプロローグはドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」のような幻想的な雰囲気で、いかにも架空の王国の話らしい世界を暗示します。歌の方ではシェマハの女王、ドドン王がすごく魅力的です。それにソプラノが歌う鶏の「キリキ、キリクク!(ロシアではこう聞えるらしい)」がアクセントになっています。このCDはブルガリアのソフィアの歌劇場一行による比較的新しい録音ですが、聴き易く出来ています。

 ドドン王は王子を失った上に、金鶏に頭をつつかれて亡くなるという結末は、とことん王族をコケにしているようです。一方で民衆が虐待されているような描写は無いので、余計にその味が際立つようです。もっとも、占い師とその金鶏の言いなりになったり、シェマハの女王に国を与えようとするあたりは、現代的な感覚からしても誰のための国だと、腹が立ってきます。ところで、東欧諸国のロシアに対する感情は、それぞれでブルガリアの場合は、オスマン・トルコの支配から解放してくれたという感謝からかなり親露的と言われます。