モーツァルトの交響曲の中でクレンペラーが公演で頻繁に取り上げて録音が多く残っているのが第29番です。第25番もライヴ音源がありますが数の上では29番の方がかなり多くなっています。作品の性格としては「第29番=アポロ的」、「第25番=ディオニュソス的」と評されることがあります。実際に作品全部通してを聴くとそんなこともなさそうですが、第1楽章の印象は確かにそんな感じと言えます。クレンペラー本人の性格は後者の要素が濃いと、数々の奇行的エピソードからはそんな風に想像できます。一方で指揮、演奏の性格としては逆で前者の要素が強そうです。クレンペラーの古くからの親友(数少ない?)の一人、哲学者のエルンスト・ブロッホはクレンペラー自身は少しも論理的でないけれども演奏はその逆という意味のことを話しています。
今回英国盤・再発売のLPで改めて聴いてみると、第25番も第29番と同じように、木管楽器がまるで水面に浮かんで漂うようにきこえて余裕のある、一種の時空を超えたような魅力を感じさせます。この録音を最初に聴いた時は第29番とカップリングされたレコードだったので、第29番とは余計に作品の違い、演奏の差が感じられたのかもしれません。しかも、第29番は1965年に再録音 した方が組み合わされていたはずなので、演奏年代によるテンポの差も影響しているかもしれません。今回は初期盤ではありませんが、より最初の音質に近いとすれば、本来の演奏に近づけたかもしれません。それにしても第1楽章の疾走感はやはりクレンペラーにしては珍しいと言えるかもしれません。テンポだけなら1950年前後の演奏は似ていても、優雅さ、余裕というかそのあたりは違っています。
これはA面にセレナーデ第13番の再録音、B面に交響曲第25番が入っていて、A面の後半とB面の冒頭に2楽章ずつヘンデルの合奏協奏曲 作品6.第4番が入ったレコードです。曲の組み合わせからも初期盤ではないようです。コロンビア・レコードの製品番号で1960年代途中まではSAX~という番号になっていて、盤面中央のラベルは初期のものは薄青い灰色のような地にCOLOMBIAという表記があるタイプです。次期は赤地に円の半分の形状の周囲に沿ってCOLOMBIAの字があり、中央に丸い赤地に白い音符の図柄が入っています。今回のLPは1968年に製造であり、そのラベルは音符の図柄であるのは共通でも背景が半円じゃなくて長方形になっています。何にしても自分が最初に聴いた国内盤の一枚1500円のLPよりは古いレコードです。
なお、「クレンペラーとの対話(P.ヘイワーズ編)白水社」によればSAX5252という番号は、セレナーデ第13番とヘンデルのコンチェルト・グロッソの最初に発売されたレコードの番号になっていますが、第25番は上記本の再発売と最初の版では番号が違っています。後者では他の交響曲と一緒になった録音集の番号が記載されています。第25番の正真正銘の初期盤はどういう組み合わせで発売されたのだろうかと思います。