raimund

新・今でもしぶとく聴いてます

ブルックナーSym.4

6 8月

ヨッフム、SKDのブルックナー第4のLP 東独ETERNA盤 

20220806ブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」(1878/80年・第2稿ノヴァーク版)

オイゲン=ヨッフム 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(1975年12月7日 ドレスデン,ルカ教会 録音 独 ETERNA 827533/34)

20220806d もう八月に入り、広島の原爆の日がやってきました。それにしても「一部の」メディアでは、先月の元首相銃撃事件に絡んで旧統一協会と政界の繋がりが取り沙汰されています。先日ネット上で佐藤優氏が事件について、(報道されているような背景、旧統一協会に過剰に献金して一家離散した容疑者・実行犯の教団への恨みが動機、ということがその通りなら、)「民主主義が十分機能していないから発生した事件」という面があると指摘していました。本来なら法的な手続き、言論によって旧統一協会から家族を守る方策がとれるはずなのに、それが容疑者一家をあそこまで惨憺たる状況に追い込むのを防げなかったのは深刻だとしていました。銃器密造の上で暗殺を決行したのは暴挙だとしても、何故「民主主義が機能しなかった」のかということも全く深刻で、そのことと閣僚やら国会議員が広告塔のような役割を果たしたことと無縁ではないはずです。この問題もそのうちうやむやの内に幕引きになるのかどうか・・・。事件当初、首相や政党関係者のコメントにえも言われない違和感、不自然さを感じていましたが、ここへきてその理由が少し分かった気がします。

 ヨッフムとシュターツカペレ・ドレスデンのブルックナーと言えば198020220806a年代末に東芝EMIの箱物LPを店頭で見かけて高くてかさばるので買わなかったのをなんとなく覚えています。ヨーロッパではEMIから出ているのだと思っていたら、東ドイツではエテルナから発売されていて、LP愛好者の間ではエテルナの方が人気が高かったそうです。単純に考えれば西側の方が生産が安定していて安心、くらいのイメージでしたがどうもエテルナ盤の方が音も良いとかそういう定評のようでした。この第4番は1楽章がLPの一面に入って二枚組という贅沢な仕様になっています。ちなみに第8番も二枚組です。

 20220806cこの録音は過去記事で複数回取り上げていますが、東ドイツのLPで聴いたということもあってまた取り上げました。音質、聴いた印象はちょっと違い、弦、金管、木管と各パートの輪郭が鮮明で、その割に金管も甲高くない、自然な響きです。CDで聴いていた時はややこもったような響きで、誇張して言えば輪郭の線が滲んでぼやけたような感じでした。今回のLPは意外な程に鮮明です。スピーカーは国産の密閉式(クリプトン)でそんなに音量を上げていません。ハイエンドな機器じゃないので別にスピーカーが違っても大した差はないところですが、LPのプレーヤーとカートリッジ、昇圧トランスがそこそこうまくセットできているようで、このところは快適に聴けています。

 それに妙に涼し気で爽快感があるのにも感心しました。ブルックナーの交響曲の中でそういう感じがする曲の筆頭かもしれませんが、暑いからブルックナーを聴いて涼しくなろうという趣向はブルヲタの中にもあまり無いと思われ、この点でもヨッフムとSKDのブルックナーの魅力を再認識しました。ヨッフムの新旧全集ではSKDとの新録音の方がオーケストラが盛大に鳴っているという印象がありましたが、そこにはちょっと大味なというマイナスのイメージも持っていました。このLPで聴いているとその感じ方は間違いかなと思いました。
23 10月

ブルックナー交響曲第4番 P.ヤルヴィ、hr-so/2009年

211022bブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ノヴァーク版)

パーヴォ・ヤルヴィ 指揮
フランクフルト放送交響楽団( hr-Sinfonieorchester )

(2009年9月3-5日 フランクフルト,アルテ・オーパー ライヴ録音 ソニーミュージック)

211022a 先日ショパンコンクールの最終結果がネットのニュースでも掲載されていました。日本人入賞者の第2、4位のみを報じて肝心の1位には全く触れていないニュースが複数ありました。一昨年のラグビーワールドカップでも日本が敗退した後の報道が省略しまくりだったのと少し重なります。コンクール自体にはあまり注目していないけれど、第1位をニュース内容の最初にもってくるか日本人入賞者と同じくらいのあつかいにしないのかと妙な違和感を覚えました。昔から営業しているレコード(CD)店へ寄ったら反田さんと小林さんのCDが店頭の目立つところに陳列してあり、既にCDも出しているならコンクールに出て結果が悪い場合のリスクも相当なものだなと、余計なことながら思ってながめていました。 

 さて、ブルックナー。一曲ずつ発売してきたパーヴォ・ヤルヴィとhr-so(フランクフルト放送交響楽団)のブルックナー交響曲シリーズが、あと第8番を残すだけとなって突如その第8番を発売せずに全曲まとめたセットに組み入れるセット販売だけで完結しました(第0番も加えて)。普通に考えれば第8番は何年かして単独で発売するところですが、このコロナ禍の環境で通常と異なるやり方がまかり通りそうな気もします。何にしてもあと一曲というところでこのやり方はちょっとと思いつつ、生き死にに関わる重大事(個人的にはそこそこ重みがあるのだけれど)でもないので気長に待つことにしています。

ヤルヴィ・hr/2009年
①16分56②14分14③10分35④21分10 計62分55

ヤノフスキ・スイス/2012年
①18分15②15分30③10分53④18分46 計63分2
ゲルギエフ・ミュンヘンPO/2015年
①18分34②16分17③11分16④22分14 計68分21
ネルソンス・LPG/2017年
①19分55②17分16③10分54④21分45計69分50

 ヤルヴィはG.ヴァントの最晩年の日本公演を会場で聴いて、自分もこういう演奏をいつかしたいと思ったとか、少年時代にセルのレコードで第3、8番を聴いていたと、日本のブルックナーフアンと通じるところがありそうです。実際に聴いてみると節度のある軽快さと明朗さで全く心地のよいものです。ドイツ系の作品からくる感銘に加えてドヴォルザークとかボヘミア系の快適さが混ざった美しさです。版については複数の版から部分的に取捨選択をしているようです。

 ヤルヴィ自身が作品と演奏について語っているところでは、因習的な演奏、重厚で物々しい、ことさら宗教的を装ったような解釈、それらを避けて通るとしています。ブルックナーが初めて長調で書いた特別な作品、寛いだ感覚や陽気な気分、「人間的な」温もりを作品の愛すべき要素として挙げています。この辺りはヴァントの演奏から直接受ける印象と違いますが、因習的なものを避けるという点では共通していそうです。
15 10月

ブルックナー交響曲第4番 ゲルギエフ、ミュンヘン/2015年

211015bブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ノヴァーク版)

ワレリー・ゲルギエフ 指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

(2015年9月22,23日 ミュンヘン,ガスタイク ライヴ録音 Warner Classics)

 いつ頃からか、レトルトのカレーが紙の箱に入ったままでレンジで加熱できるようになり、昼にでも事務所で手軽に食べられるようになりました。最初はKレー職人とか限られた種類だけでしたが、そのうちBんカレー、Kクレカレーもその方式に対応し出し、最近は昔からあったSBゴールデンカレーやジャワカレーまで発売されました。味はルーを使って調理したものとはやり方によっては差が出るものの、特にSBの方は昭和50年代前半までよく食べていたので妙な感慨に包まれました(あの頃に戻りたいとか一切、血の一滴から産毛の先端に至るまで思いませんが)。あの頃は今以上にカレーが美味かった、うまいと思ったんだなと。

ゲルギエフ・ミュンヘンPO/2015年
①18分34②16分17③11分16④22分14 計68分21
ゲルギエフ・ミュンヘンPO/2017年
①18分37②15分31③11分41④22分39 計68分28

211015a ゲルギエフは2015年9月からミュンヘン・フィルの首席に就任したので、これは就任直後の公演をライヴ収録したものです。なお、2017年にはリンツの聖フロリアンでこの曲をライヴ収録していて、そちらは全集(映像ソフトも全集)の中に組み入れられています。CDは分売もされ、ジャケットには聖フローリアンの聖堂が使われています(今回の第4番は別デザインなので区別が付き易い)。ミュンヘン・フィルがブルックナーを演奏するならドイツかオーストリアの指揮者を起用すればとか、21世紀にもなってそんなことを思うのは古すぎるかもしれませんが、他に居ないのかとチラっと思ったのはほんとうでした。

 実際に聴いてみると先日のティーレマン、ウィーン・フィルとはまた違うものの、負けないくらい素晴らしい内容でした。ブルックナーらしい豊かな響き(既存のブルックナーらしいというイメージ)という点ではこっちの方が優っているかもと思うくらいです。咆哮して騒々しい、又は「無機的」なタイプではなく山裾を散歩しているような心地です。ゲルキエフは1990年代に注目されたようですが、ほとんど聴いたことがなくて2010年前後くらいになってCDで聴いた程度でした。爆演的だったとそんな文章を読んでいたのでどんなブルックナーになるかと思ったら、聖フローリアンでも演奏するだけのことはあると思いました。

 特に第3楽章が魅力的で、前後の楽章から通して抵抗なく聴くことができました。というのは、個人的に第2稿のスケルツォ楽章があまり好きではなく、聴いていてしばしばだれる、長すぎると思えて、別物だとしてもこれなら初期稿の方がまだ良いかと思っていました。どこに秘密、工夫があるのか分かりませんが、この録音のスケルツォ楽章は心地よくて、もう終わるかと思うくらいです。そのかわりに続く終楽章がちょっと濃厚で、一瞬チャイコフスキーがチラつく気がしました。
11 10月

ブルックナー交響曲第4番 ティーレマン、ウィーンPO/2020年

211011bルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878・80年稿 ハース版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2020年8月21,22日 ザルツブルク祝祭大劇場 ライヴ録音 Sony Classical)

 先日発売日直後に塔レコードの京都店で品切れになっていたティーレマンとウィーン・フィルの新譜です。第1稿ではなく普及して、何世代か前の指揮者が取り上げていた1878・1880年稿のハース版を使用しています。最近の新譜ではネルソンスがノヴァーク版を使っているの対してわざわざハース版の方を選んで使用したのか、ティーレマンはドレスデン、ミュンヘンでも同じ版を使っていました。

 ここまでウィーン・フィルとは第8、3番を録音、発売済ですが、今回の第4番が一番素晴らしいと思いました。コロナ禍の中にあってよくぞ演奏、収録してくれたものだと思います。どの楽章も素晴らしいと思いましたが、終楽章が特に他の追随を許し難い魅力です。冒頭からブルックナーらしい峻厳さと隅々まで潤いの行き届いた繊細さはなかなか同居し難いのではないかと思います。前者、そびえ立つような峰に威圧されるような感覚が勝つと後者のような味は後退しがちです。第3楽章も不思議にしつこさが無くて、自然と次の楽章に入って行けるような絶妙さだと思いました。

ティーレマン・VPO/2020年
①19分23②16分12③11分12④22分55 計69分41
ティーレマン・ドレスデン/2015年5月23日
①19分11②16分48③11分08④23分13 計70分20
ティーレマン・ミュンヘンPO/2008年
①20分23②17分16③11分46④23分44 計73分09
ネルソンス・LPG/2017年*同稿ノヴァーク版
①19分55②17分16③10分54④21分45計69分50
ヤノフスキ・スイス/2012年*同稿ノヴァーク版
①18分15②15分30③10分53④18分46 計63分24

 ティーレマンとウィーン・フィル、ソニー・クラシカルと言えばベートーヴェンの交響曲があり、映像ソフトと同じ音源だったのか、何曲か聴いたところ、音質が今一つだったのを残念に思っていました。たいした装置で聴いているのでもないくせに、音質がどうのと言うのもあれですが、どうもマイクが遠いというか、ぼやけたような音に感じられて、古典派の作品だからもっと隅々まで克明に聴こえても良さそうだと思っていました。今回のブルックナーはそういう不満は無くて、小さい音の箇所も十分に鑑賞できます。

 最近パーヴォ・ヤルヴィのブルックナー全集(第00番は除く)がセットでのみ発売されました。ここまで一曲ずつ分売されてきて、第8番を残したところで急にセットのみでの発売となりました(ここまで発売していなかった第0番付きで)。なんでも当分第8番だけの分売は予定が無いらしく、せこいことをやってくれると思いつつ、読みが甘かったと反省しています。しかも第8番は2012年の録音で、第1番から第9番を含めて2006年から2014年までに録音しています。第0番が2017年で全部新型コロナ以前に完了していたわけで、このやり方には憤りを禁じえないと言えよう。あるいは第8番あたりを録り直すつもりだったのがコロナ禍で断念したのか、とにかく残念です。ティーレマンとウィーン・フィルのブルックナーは誠実に販売して欲しいところです。
28 7月

ブルックナー交響曲第4番 フルトヴェングラーVPO/1951.10.22

210728aブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調(1888年稿 Revised by Ferdinand Loewe)

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(1951年10月22日 シュトゥットガルト,ヴァルトハイム・デガーロッホ ライヴ録音 GRAND SLAM

210728b 今朝は少し気温が下がったような気がして少しだけ爽やかでえした。ここ何日かは皮膚呼吸を封じられるような息苦しい暑さが続き、気温だけならここ何年かでもっと高温の日もあったのに、この不快感は異様でした。生涯で一度たりとも夏痩せをしたことがなかったけれど、
この調子では今年は本当に痩せそうです。こんな暑い中でよく屋外で競技を(ry 。それはそうとブルックナーの交響曲第4番の異稿・異版の違いについて、先日のクレンペラーのところで書いた1944年のハース校訂というのがどうも気になってきて、何のこと、どの楽譜のことなのか過去記事を遡ってみました。
 
 初期稿は1874年作曲・第1稿、そこから第3楽章をまるごと差し替えて(1877年)、第4楽章を大幅に改訂(1880年)したのが第2稿になりました。その第2稿のハース版が1936年に出版され、ノヴァーク版が1953年の出版でした。ここまでは1944年というのは出てきませんが、Wikiの楽曲解説にはハース版について「いったん出版しながら、一部内容修正の上1944年に再出版された」としています。そして、「この際修正されたのは、第3楽章トリオ冒頭の管弦楽法であり、主旋律を担当する楽器が変更されている」、「ただしこの部分、自筆稿・ノヴァーク版・さらに1936年のハース版ではいずれもフルートとクラリネットが旋律を演奏しており、1944年のハース版のみが相違を見せる(オーボエとクラリネットが旋律を演奏する)」と説明されています。

フルトヴェングラーVPO/1951年10月22日
①17分53②18分20③10分34④19分31 計66分18

フルトヴェングラーVPO/1951年10月29日
①17分07②17分31③09分55④19分12計63分45

 ブルックナー・ブーム(一定のヲタ層に限ったことだったか??)が盛り上がった頃、フルトヴェングラーのブルックナーは逆に日陰の位置だったかもしれません。ステレオ録音が本格化する前に亡くなっていたというだけでなく、芸風がブルックナー向きじゃないという評もあってその影響もあったのでしょう。今年に入ってフルトヴェングラーのブルックナーから第5番、第9番を聴いていて、改めて好感を持って、意外にもなにかピュアなものに触れた気がしていました。この第4番は少し違い、後期ロマン派の趣を醸しながら大人しい印象です。音源の状態、年代の加減もあるのでしょうが、使用している稿が改訂稿というのも効いているかもしれません。といってもどこがどのように違うかと問われても挙げられません。作曲者以外の手によるカットがあり、より聴き易くされていると言われ、第5番の改訂稿ではその効果が顕著に思えて結果的に聴いた後の感覚として、原典稿とは別世界でしたが、第4番はそこまでの差は無さそうでした(むしろ初期稿との差が大きい)。

 フルトヴェングラーのブルックナー第4番は英DECCAが発売したLP、ウィーン・フィルを指揮した1951年10月29日、ミュンヘンでのライヴ盤が最初だったそうで、今回ののものはそれより一週間前にシュトゥットガルトで演奏したものです。こちらもDGからLPとして発売されていましたが、使用楽譜・稿、版についてハース版と表記された時期があったそうですが、両方とも改訂版でした。改訂版というとマイナスの価値を織り込んだ響きですが、最初に出版されて普及したと言う点を強調して「初版」という呼称も使われています。
24 7月

クレンペラーACOのブルックナー第4番/1947年

210706ブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878・80年稿 ハース版)

オットー=クレンペラー 指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

(1947年12月4日 アムステルダム,コンセルトヘボウ ライヴ録音 Otto Klemperer Film

210706a 今朝、宇治橋西詰の交差点で止まっていると東岸の山の緑が
五月頃のうすい白っぽい緑とは違い、濃い色に代わっていて、落ち着いた色合いなので見ているだけで気が休まりました。新芽の色が山肌に広がっていると何か酔っ払いそうになり、昔からどうも苦手でした。昨夜BSの報道番組を見たら中谷元防衛大臣や田中元外務審議官らが出演していて、「3S政治が生んだ日本の危機」というテーマで討論していました。その中で、ほとぼりがさめる、やがて忘れられる、ニュースで報道しなくなるというのを計算に入れているという件がありました。全くそうだなと思い、そういえばパラの聖火を五年前に起こった虐殺事件現場、津久井やまゆり園で採火する計画があって撤回されたことがありました。二カ月くらい前のことでしたが、もっと古い出来事のような錯覚にはまっていました。事件現場で採火したから新たに死者が出るとか、そういうことではないとしても、そもそも事件をどう受け止めているのだろうかと大いに訝しく思います(命の重みとか尊厳が相対化されているような気がする)。

 さて、先月に発売されたクレンペラーとアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との公演SACD集の第一枚目が、1947年12月4日の公演プログラム全部が入っていて、三曲目がブルックナー第4番でした。HMVのサイトで掲載された補足・年表・解説によると、この時の使用楽譜は「ロベルト・ハースが1944年に新たに校訂した原典版」と言及しています。しかし、「1878・80年稿のハース版」は1936年に出版されていて、1944年出版の楽譜は見当たらないので具体的にどういう楽譜のことを言っているのかよく分かりません。1954年のケルン放送交響楽団との公演について「第3楽章中間部最初の主旋律をオーボエに吹かせるというハースの1944年版に準拠
」と書いてあるので、出版後の1944年にハースが更に校訂したものという意味かもしれません(細かすぎてわからない)。

~ クレンペラーのブルックナー第4番
ACO/1947年12月4日*ハース版
①13分44②12分48③09分58④17分19 計53分49
ウィーンSO/1951年・VOX*ハース版
①13分27②11分56③09分25④16分32 計51分19
ケルンRSO/1954年*ノヴァーク版
①14分49②13分22③10分30④17分38 計56分19
PO/1963年・EMI*ノヴァーク版
①16分06②13分55③11分44④18分59 計60分44
バイエルンRSO/1966年*ノヴァーク版
①16分10②14分24③11分18④19分02 計60分54

210724 1951年のウィーン交響楽団の第4番は快速の演奏、フィルハーモニア管弦楽団と大違いということで注目されていました。今回のACOとの公演はそれのさらに3年以上前の演奏ということになりますが、演奏時間としてはVSOとの録音よりも3分以上長くなり、速いながらも余裕が感じられます。オイゲン・ヨッフムは第4番の第2、3楽章はあまり重要な内容ではないと指摘していますが、クレンペラーのこの演奏では全楽章のまとまり、統一感が良好で、ヨッフムが指摘したそういう欠点?が目立たない気がしました。こうして演奏、録音年代ごとに演奏時間を並べると、EMIレコーディング開始以前、開始後火傷以前、火傷後ユダヤ教改宗前と各期によって合計演奏時間がけっこうはっきりと分かれています。

 1945年から1975年までアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のヴァイオリン奏者であったルイ・メッツはクレンペラーのブルックナー演奏について次のように書いています。「クレンペラーが指揮すると驚くべき感覚に見舞われます。彼が音楽を作っているのではなく、音楽が彼を作っている。彼は指揮するのではなく、指揮されている。それをこれほど強く意識する指揮者ほかにはいません。だから私たちは、彼の指揮を聴いていると『なるほどそうか。これはこんな音楽なのか。確かにそうなり得る。これが音楽そのものの自然な流れだ。とくにブルックナーの場合、最初から超個人的な性格が植え付けられる』と感じるのです。」EMIのレコードに対するクレンペラー評とはちょっと違う内容ですが、マーラーの指揮に対するクレンペラーの感想と似ているのが興味深いところです。

 音質は1947年という年代を考えれば良好で聴き易いものですが、どこかしらマイクが遠いような、オーケストラの音が十分入っていないような薄い響きという印象がぬぐえません。ACOとのSACD集の音源については付属冊子に、「現存する1955年から1961年にかけてのクレンペラーのアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の録音はブレフスタインが録ったものに限られる。オランダ放送は全てのテープを破棄してしまっていたのである」と書いてあったので、1947年の公演はブレフスタイン氏以外のテープなのか、たまたま放送局に残っていたのか、とにかくそこそこの音質かと思いました。
18 7月

ブルックナー交響曲第4番 ヨッフム、BPO/1965年DG

210718ブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ノヴァーク版)

オイゲン・ヨッフム 指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(1965年6月22-7月5日 ベルリン,イエス・キリスト録音 DG/TOWER RWCORDS)

210718a 先日の夕方新型コロナのワクチン、一回目接種を受けました。副反応は殆ど無く、当日の夜にやや体が熱いような気がする程度でした。問題は二度目の接種後で、65歳以上でも38度の発熱があった人もいました。当日は受付で診察券や健康保険証を提示することなく、支払いも不要で接種を受けられました。この点は誠に有難いことですが、毎年度納付する健康保険の支払いは個人事業者なので(収入の割に)結構な額になり、最初の頃は何じゃこりゃあと内心で叫んでいました。それはともかく、昨年はガラガラに空いていた医院も接種予約でかなり混んでいました。

 これはオイゲン・ヨッフムがDGへ録音したブルックナーの交響曲全曲(第00と0番は含まれない)録音をSACDハイブリッド化したものです。ヨッフムの旧全集は第1、4、7-9番がベルリン・フィル、第2、3、5、6番をバイエルン放送交響楽断という分担でした。この録音は過去記事でも扱っていましたが、タワーレコードの復刻SACD化シリーズの中にはリマスター具合が素晴らしいものがあったので、ブルックナーの初期全集として貴重なヨッフムDG全集は再度聴きたいと思いました。

ヨッフム・BPO/1965年
①17分43②16分46③10分10④20分16 計64分55
ヨッフム・バイエルン/1955年
①17分31②16分41③10分24④20分25 計65分01
ヨッフム・SKD/1975年EMI
①17分55②16分44③10分01④20分27 計65分07
クレンペラーVSO/1951年・VOX*ハース版
①13分27②11分56③09分25④16分32 計51分19
クレンペラーPO/1963年・EMI
①16分06②13分55③11分44④18分59 計60分44
ヴァント・ケルンRSO/1976年*ハース版
①17分26②15分37③10分33④20分22 計63分58

 改めて聴いてみると1960年代の割に鮮明で聴き易い音質で、これもリマスター、SACD仕様のおかげか、第1楽章の冒頭なんかも感銘深く聴けました。ヨッフム指揮のオペラ以外ではブルックナーが感銘深くて、それも声楽作品よりも圧倒的に交響曲が印象的だと思っています。ベートーヴェンの交響曲は三度も全曲録音をしていながら個人的にはブルックナー程印象は強くないのが不思議です。DGとの旧全集の方は肥大したようなところはなくて、ブルックナー以前の独墺系シンフォニーの枠におさまるような、延長線にあるような、心持こじんまりとしたような響きに感じられます。それは第4番の終楽章でも感じられて、良い意味で聴き易いものになっています。

 ヨッフムは第4番の第2、3楽章の重要性は比較的軽いと作品解説で言及しています。しかし全曲を通して聴いていると両端楽章、特に終楽章が突出したような印象ではなくて、バランスよくおさまっています。この作品のLP、CDともに最初に購入したのはクレンペラーとフィルハーモニア管弦楽団のEMI盤(どちらも国内盤)でしたが、最初の印象は重過ぎて硬過ぎて、誇張して言えば作品に門前で拒まれるような威圧感でした。クレンペラーのブルックナー(に限らないかもしれない)は多かれ少なかれそんな感覚が付きまといますが、ヨッフムの場合、特に旧全集はその対極といったところです。
30 9月

ブルックナー交響曲第4番 朝比奈隆、N響/2000年

200925bブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878・80年稿 ハース版)

朝比奈隆 指揮
NHK交響楽団

(2000年11月3-4日 録音 fontec)

200925a 先日カレンダーの九月を眺めていると30日の横に31日と表記されていることに今頃気が付きました。このカレンダーは二月のところにも同様の間違いがあって、購入後に訂正シールを受け取っていましたが、九月については説明があったかどうか定かではありません。もう今日で終わるのだからどっちでも良いことながら、何か提出期限で焦っていたりしてたらトラップ的に勘違いしたかもしれません。このカレンダーは毛筆で新、旧約聖書から短く抜粋した言葉を上半分に充てた構成でした(制作元は略)。そろそろ来年のカレンダーを用意する頃なので、やっぱりその書道カレンダーも続けて使うつもりです。

 先日は若杉弘とN響のブルックナー第4番を聴いたので、同じくらいの時期に朝比奈隆が客演した第4番があったのを思い出して聴きました。朝比奈のブルックナーはベートーヴェン同様に同曲の異なる機会の録音が多数あり、知らない内に未発表だった音源も出てきているのでいったいどれだけあるのか分かりません。このN響とのライヴ録音は最晩年のものであり、これの後は同年11月27日の大阪フィルとのライヴ録音だけのはずです。

朝比奈・N響/2000年
①18分32②15分50③11分15④20分46計66分23
若杉弘・N響/1997年
①18分58②15分37③11分22④21分33 計67分30

 朝比奈隆のブルックナーの中でも第4番は好きな曲の一つで、同じくらいの年代にN響に客演した第8番が見事だったのでついでにこれも購入したという経緯でした(同じように紙のジャケットに入っている)。朝比奈隆にも熱烈なフアンが居て、ライヴ収録したものには演奏が終わった後に歓喜の反応が入っていることがあります。中には雄叫びをあげたと自らコメントしているフアンのあるほどですが、曲によってはそういうノリ、興が自分には合わない気がしていました。第8番の通常演奏される1890年稿なんかはそれでもいいかなと思え、第4番もあまり気にならないと思っていました。

 改めて聴いているとこの第4番はそこまで豪快というか、特別な盛り上がりではなく、良い意味で落ち着いていると思われ、最晩年の演奏だけのことはあると思いました。CDの解説によるとこのシーズンのN響の公演の中からベストの回を決めるアンケートでは、第1位が同じく朝比奈のブルックナー第9番、第2位がこの第4番だったそうです。解説者はその逆で、複数回の公演の内で良い方を選べば第4番の方が1位だと書いていました。個人的にはそれに同意だなと、実際に会場で聴いてもいないのに読みながら頷いていました。
20 9月

ブルックナー交響曲第4番 ヨッフム、バイエルンRSO/1955年

200920bブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ノヴァーク版)

オイゲン・ヨッフム 指揮
バイエルン放送交響楽団

(1955年10月3-5日 録音 DG)

200920a FM(NHK、AMでも放送していたかもしれない)の番組に「音の風景」という5分程のものがあります。朝市、魚の行商、SLの音なんかが収められていますが、旧国鉄時代の駅構内の放送がけっこう印象的で、いま思い出しても萌えてきます。その中で米子駅の放送「よなごぉ~」という男声の、ややのどかでよく響く声は素晴らしくてそれだけで米子駅で列車のタラップから降りて来るような気分になれました。当然米子駅には降りたこともなく、通過したこともありませんので、余計にその音声がありがたく思い出されます。普段、日常的に京阪電車のこもったような声(漫才・中川家弟のネタで有名)ばかり聞いていたので全く新鮮に感じられました。もっとも、JR西日本になり、令和の現在はどんなアナウンスなのか分かりません。

ヨッフム・バイエルン/1955年
①17分31②16分41③10分24④20分25 計65分01
ヨッフム・BPO/1965年
①17分43②16分46③10分10④20分16 計64分55
ヨッフム・SKD/1975年
①17分55②16分44③10分01④20分27 計65分07
ヴァント・ケルンRSO/1976年
①17分26②15分37③10分33④20分22 計63分58

 さて、段々と涼しくなってきてブルックナーの交響曲も最初から最後までエアコンのついていない部屋でも聴けるようになってきました。今回のヨッフム指揮、バイエルン放送交響楽団のブルックナー第4番は、DGの全集(1958-1967年)より前に録音されたもので、全集では第1、4、7、8、9番はベルリン・フィル、第2、3、5、6番がバイエルンRSOだったのでオーケストラの組み合わせも違っています。ヨッフムの第4番、使用楽譜は、反復省略等のやり方は分かりませんいずれも1878/1880年稿ノヴァーク版です。合計の演奏時間はドレスデンとの全集も含めて大きくは違っていません。

 全曲を通して聴いてから両端楽章を同じDG盤の新旧を交互に聴いたりしました。「『ドイツの森の気分を持っている』という点からもロマンティックという題名は適切」、という見方は1955年のバイエルンRSOとの方がより似つかわしい気がしました。終楽章は冒頭の岩だけのそびえる断崖を思わせる威圧感で迫りますが、バイエルンとの方は潤いがあって岩だけでなく葉の緑でおおわれていそうです。シューベルトの交響曲からの連続という感じは旧DG録音の方により強く感じられました。第1楽章は旧DGがより奔放で水門を開けて勢いよく流れだすような流動感です。

 ベルリンとミュンヘンでオーケストラの差が出ているのか、ブルックナーとしてはどちらの都市も故郷でもなく、微妙な親近感じゃないかと思います。ヨッフムはブルックナーの交響曲第4番については第2,3楽章の重要性は比較的軽い、音楽的クライマックスは両端楽章にあると考えています。そういう考えの割に終楽章に力が入りすぎず、その点はヴァントの第4番より控え目かなと思いました。ヨッフムは「後期ロマン時代の官能的音楽が要求するような、あまりに大きなアッチェレランドやリタルダンドを、私はいましめたい」とも述べていて、そこはヴァントと共通しているはずです。
19 9月

ブルックナー交響曲第4番 若杉弘、N響/1997年

200919ブルックナー交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878・80年稿 ノヴァーク版) 

若杉弘 指揮
NHK交響楽団

(1997年2月24日 東京,サントリーホール 録音 Altus)

 気が付けば今日からカレンダー上は4連休でした。ゴートゥー何とかの影響か、飛行機はそこそこ込みそうだとニュースでは言っていましたが、こちらは全く関係なくてステイ・ホームかステイ・オフィスだけで終わります。そんな中、自分が乗れなかったけれどかなり長距離を走る列車に思いをはせて、旅行に行ったような気に一瞬なってそれで済ませていました。長崎から京都を走る気動車の特急かもめ(キハ82)とか、大阪青森間の白鳥、札幌網走間のオホーツクは尻が痛くなりそうな乗車時間です。今では豪華な金目の列車が創設されていますが、料金だけでなく風情の面であまり惹かれないので、銀河鉄道999が他の777なんかと違ってレトロな外観に仕立てたように、国内列車でも懐古趣味的な列車を走らせる日が来ればいいのにとぼんやり思っています。

 先日の交響曲第2番に続き若杉弘、NHK交響楽団のブルックナー・チクルスから今回は同じく第二期の第4番です。1996年の1,2,3月に交響曲第3、7、8番、翌1997年の1,2,3月には交響曲第2、4、6番を、1998年の1,2,3月には交響曲第5、1、9番と三年間にわたり毎年三曲を取り上げていました。当初RCAから全曲CDが出ると告知されていましたが、第7番まで(第3と第7の2曲)が発売されたところで中断になりました。第8番は録音済だと発表されていたような覚えがあり、当時も残念に思っていました。

 今回の第4番を聴いているとやはり精緻で抑制された表現であり、非常に魅力的でした。自分の好みとしては、ブルックナーの交響曲の中でCDで最初から最後まで通して再生する頻度が一番低いのが第4番ですが、今回のものは全楽章の結びつき、統一・共鳴感が強い気がしました。交響曲第2番から第4番までは初期稿と第2稿以降とではかなり違っていて、その中でも第4番は広く浸透している1878・1880年稿とでは半分がほぼ別物なので、第3楽章のところで違う曲を継ぎ合あわされたような感じがすることがあります。そうでなくても第3楽章のスケルツォがくどい(そんなに長い楽章じゃなにのに)気がします。全く個人的な好みですが、この第4番はそうしたマイナスの印象が限りなくゼロに近い、不思議な魅力がありました。

若杉弘・N響/1997年
①18分58②15分37③11分22④21分33 計67分30
朝比奈隆・大阪PO/1993年
①19分24②15分21③12分29④21分04 計68分18
朝比奈隆・N響/2000年11月3,4日
①18分32②15分50③11分15④20分46 計66分23

 若杉弘と言えば1990年第前半に東京都交響楽団とのマーラー・チクルスがありました。ヨーロッパのオケ、歌劇場でポストを得ていたくらいだから、それより早くブルックナー・チクルスをやっていても良さそうなものですが、朝比奈隆の存在が大きかったのでなかなかブルックナーを連続して取り上げ難かったそうです。朝比奈隆のブルックナーは自分の好みととしては全面的に素晴らしいとまでは言えない微妙さがあって、そんな中で交響曲第3、4、8番あたりは好印象だと思っていました。第4番は同じくN響を指揮した2000年のライヴ録音か1993年の大阪・フィル(キャニオン・クラシックスの全集)との録音が印象深いものでした。それらと比べると今回の若杉N響は対照的というか、感触が違うものだと思いました。ヨーロッパの庭園で英国式とフランス式があり、自然の風景を切り取ったような姿が目立つの前者なら、後者は人造的な直線で綺麗に加工された姿が目立つのが特徴だと大雑把に言えるものです。この若杉・N響の第4番は良い意味でフラン式庭園の美点を思わせる美しさだと思いました。
27 10月

ブルックナー交響曲第4番 ティーレマン、SKD/2015年

191027ブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ハース版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(2015年5月23日 バーデン=バーデン祝祭歌劇場 ライヴ収録 C Major)

 先月末に自家用車を修理に出していたのでしばらく代車を使っていました。レヴォークのターボ付でしたが一般道ばかり走行したので全然関係ありませんでしたが、フォレスターよりグレードが上なだけあって全く静粛で安定した乗り心地でした。ただ、シートの座面が高くないので乗降時にしゃがみ込むような姿勢になり、それが普通なのに車高とシートが高いものに慣れていたので大いに違和感がありました。それからナビのSDカードにためたいつもの音楽が聴けないので調子が狂いました。やっと慣れた車が戻ったと思った矢先、スーパーの平面駐車場にとめている時、発車する隣の車が接触してまた同じ箇所を損傷してしまいました。こういうことがあるのだと、祟りのようなものを感じる反面、発車する時に当てるとはどんな初心者なんだとかなり驚きました。自分は車外に居り、エンジンもかかってなかったので過失云々の問題は無いのがせめてもの救いでした。

 ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンの公演を収録したブルックナーの交響曲シリーズが完結(第1~9番)しようとしています。映像付の全集が出るとは二昔前は想像できませんでした。第4番はミュンヘンPOとの映像ソフトが既にあったので念が入ったことです。両方とも演奏終了後に静まり返り、指揮者の手が下り切って静止してから拍手が始まるという反応が同じになっています。また会場も同じバーデン=バーデンで約7年の間隔をおいての収録です。なお、当日は聖霊降臨の大祝日だったようです。

ティーレマン・ドレスデン/2015年5月23日
①19分11②16分48③11分08④23分13 計70分20
ティーレマン・ミュンヘンPO/2008年
①20分23②17分16③11分46④23分44 計73分09

 新旧の演奏時間を比べると2008年のミュンヘン・フィルの方が少し長くなっていますが、今回何度か視聴していると何となく逆(ミュンヘン・フィルの方は記憶に頼って比較)な印象で、特に第2楽章が長く感じられました。総じてゆったりと穏やかな演奏だと思いました。その代わりというか、終楽章のコーダ部分は自然な流れながら大いに高揚して盛り上っていました。指揮している動作からは特段それを狙って強調するようには見えず、このあたりは演奏終了後の客席の反応とつながりそうでした。

 2000年以降もブルックナーの交響曲を全曲録音する指揮者、オーケストラは増えています。その中で新しい(と言う程でもないか)演奏の傾向は、速目のテンポ、ノンヴィブラート、小編成(曲によっては)、くらいが挙げられます。あとはメジャーなオーケストラよりローカルなオケも目立っています。ティーレマンの場合はそれらにあてはまりませんが、演奏からは不思議に重厚長大という印象をあまり受けません。
10 10月

ブルックナー交響曲第4番 ヴェンツァーゴ、バーゼルSO

191010bブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ノヴァーク版)

マリオ・ヴェンツァーゴ 指揮
バーゼル交響楽団

(2010年8月23-25日 カジノ・バーゼル ムジークザール 録音 Cpo)

191010a 先日マイクロソフトのオフィスを買うために量販店へ行ったらひと昔前にあった「アップグレード版(旧バージョンのユーザー用)」がありませんでした。そもそもそういう仕様が既に無くて、ダウンロードバージョンだけになっていました。ここ5、6年はパーツショップのパソコンに最初からインストールされたものを使っていたのでソフトの環境変化に気がつきませんでした。というわけで別に店頭で買わずにネットで購入してそのままダウンロードすれば良かったわけでした。それにしてもMSのアカウントは過去にも作成していたので、ダウンロード時に色々混同してちょっとやっかいでした。

 さて、金曜日は京響定期公演なので再度プログラムに入っているブルックナー第4番を聴きました。スイス、チューリヒ出身のマリオ・ヴェンツァーゴは複数のオーケストラを使い分けてブルックナーの交響曲を通称の第0番を含み全曲録音していて、第一弾の二枚組、第4と第7はバーゼル交響楽団でした。
ヴェンツァーゴの企画は第5番を二管編成の室内オケ、タピオラ・シンフォニエッタが受け持っていたのが注目されました。その選択からしてどういう方針なのか推測できそうで、この第4番も明晰さを追求して壮大、重厚を可能な限り抑え込んだ独特の響きになっています。合計演奏時間ではヘレヴェッヘよりも短くなっています。

ヴェンツァーゴ・バーゼル/2010年
①18分09②13分43③10分33④18分47計61分12
ヤノフスキ・スイスROM/2012年
①18分15②15分30③10分53④18分46計63分24
ヘレヴェッヘ/2005年
①18分06②15分50③09分55④20分33計64分24
ブロムシュテット・LGO/2010年
①18分59②15分04③11分11④21分03計66分17
ネルソンス・LPG/2017年
①19分55②17分16③10分54④21分45計69分50
ズヴェーデン/2007年
①20分51②17分13③10分26④23分05計71分35

 全体の印象はそれほど違和感が強く、拒否反応が出るものでなくて(こういうのも失礼)、終楽章が速めであまり高揚しないのが目立った特徴だと思いました。過去に聴いた色々な第4番の第2稿からは、第1楽章が長い、第3楽章も分量の割に長く感じて、終楽章が威圧的でなかなか全楽章を連続して聴けないという、ちょっと苦手な印象を持っていましたが今回の第4番はそんな感じはほとんどありませんでした。同じ稿、版なのにそうではないような印象を受けました。

 バーゼル交響楽団は旧バーゼル交響楽団とバーゼル放送交響楽団が合併して発足していて、後者はベロミュンスター放送管弦楽団と称していた時代にクレンペラーも客演して録音を残しています。この楽団によるブルックナーと言えばフェルディナンド・ライトナーが指揮した交響曲第6番がありました。かつて(1990年代前半)購入して聴いていましたがCDを大量処分した際に手放してしまい、今では入手困難のためけっこうな高値が付いているのを見たことがあります。
7 10月

ブルックナー交響曲第4番 ショルティ、CSO/1981年

191007ブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ノヴァーク版)

ゲオルグ・ショルティ 指揮
シカゴ交響楽団

1981年1月27日 シカゴ,オーケストラ・ホール DECCA)

 今週の金曜は京響の十月定期(一日のみ公演)があり、プログラムはモーツァルトのハフナー交響曲とブルックナーの交響曲第4番です。ブルックナー党としてはうれしいのが半分、別の曲だったらなお結構というのが本音です。予定表で「ブル」という字が見えた時は実演でまだ聴いたことがない第6番とか第2番を一瞬期待しましたが、それでもブルックナーには違いないのでチケットを買いました。そういうわけでブルックナー第4番の記憶を呼び覚ますべく、一曲を通して何種かCDを聴いておくことにします。

ショルティ・シカゴ/1981年
①17分57②14分44③10分03④20分12 計63分07
ヴァント・ケルンRSO/1976年
①17分26②15分37③10分33④20分22 計63分58
ヨッフム・SKD/1975年
①17分55②16分44③10分01④20分27 計65分07
ベーム・VPO/1973年
①20分14②15分34③11分09④21分13 計68分10

 
ショルティはブルックナーの交響曲をシカゴSOと一度だけ全曲録音していたはずですが、ショルティのレパートリー中でブルックナー微妙でした。というか一定の層で不人気だったと言えそうです。或いはマーラーの方の注目度が高かったのでそこまでは評判になってなかったというくらいかもしれません。改めて聴いてみるとあまり力み返る風でなく、剪定された木立から光が良く差し込む森林といった印象で、適度にしなやかで自然な趣です。1984年か85年にショルティが来日した際、大阪では二回公演があってメインがマーラーの第5番の日とブルックナーの第7番の日がありました。自分が聴いたのは前者でしたが、その当時で既に無機的とか外面的というマイナスの評に近いものがあったかもしれず、それに影響されてしまいました。

 この第4番を聴いていると今頃になってブルックナーを聴かずに惜しいことをしたと思えてきます。1970年代のベートーヴェンの初回全集と少し似た演奏だとも思いました。同じ稿・ノヴァーク版の録音でトラックタイムを比べると、ヴァンとケルン放送SOと一番似ていました。しかしレーベル、ホールの違いの影響もあってかショルティの方が柔らかい印象です。それに特に終楽章はヴァントの方が威圧的で壮大さが前面に出る感じです(この時期のヴァントはまだスケール感は大きくないとされているけれど)。

 ブルックナーの演奏で評判が良くないタイプといっても好みの違いがあり、流行りというのか好まれるスタイルも変遷しますが、金管が咆哮し過ぎ、直線的過ぎるとか、休符が目立たない等がマイナスの要素として考えられます。今回のショルティとシカゴSOの第4番はそういうタイプとは遠いと思いました。
16 5月

クレンペラー、ウィーンSO ブルックナー第4番/1951年

190516bブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB.104 「ロマンティック」(1878-1880年第2稿ハース版)

オットー=クレンペラー 指揮
ウィーン交響楽団

(1951年3月19-23日 ウィーン 録音 VOX)

 この米VOX社へのブルックナー交響曲第4番のセッション録音は、クレンペラーの速いテンポの代表盤としてよく引き合いにだされています。その他にもLPレコードとして初のブルックナー交響曲全曲盤であり、SPも含めてもベーム、ヨッフムに続いて三番目の全曲録音だったようです。1930年代にあった世界聖餐会議なるものの機会にクレンペラーがブルックナーの交響曲を演奏して絶賛されたらしく、マーラーだけでなくブルックナーも早い時期から積極的に取り上げてきたことの一端がうかがえるレコードでした。

 改めて聴いてみると速いだけでなく重厚さ、威圧感がかなり後退しているのでシューベルト作品の延長という印象をうけます。これは国内復刻CD(VOXヴィンテージコレクション)なので日本語の解説冊子が付属しているので、それによると当時のウィーン・シンフォニカも古い楽器を使用していたこともあってオーケストラの音色が独特の美しさで響くことを指摘しています(オーボエやクラリネット、チェロの柔らかい響き)。新リマスターの加減もあってVOXの廉価CDからかなり聴き易くなり(欠落部分も改善されている)、古い壁画を洗浄して夜が明けたような鮮明さなのでその指摘も実感できます。

~ クレンペラーのブルックナー第4番
ウィーンSO/1951年・VOX*ハース版
①13分27②11分56③9分25④16分32 計51分19

ACO/1947年12月4日*ハース版
①14分03②12分58③10分11④17分48計54分00
ケルンRSO/1954年・ライヴ
①14分49②13分22③10分30④17分38計56分19
PO/1963年・EMI
①16分06②13分55③11分44④18分59計60分44
バイエルンRSO/1966年・ライヴ
①16分10②14分24③11分18④19分02計60分54

 稿・版は1878-1880年第2稿・ハース版ですが、第1楽章169小節をフォルテに変えているのは改訂稿の名残りだと指摘されています。またクレンペラー独自の工夫として、第2楽章でヴィオラの旋律をソロに変更している部分(51~54小節)があります。一番印象的なのは終楽章の軽快さ、流動的な感興で、後年の断崖が眼前にそびえ立ったような威圧感とは全く対照的です。これを聴いていると「クレンペラーらしさ」とはどう理解、説明すれば良いのかと思います。

 ところでこのVOX社へのセッション録音から遡ること約四年、1947年のクレンペラーは、ロスPOに客演直後に2人組の強盗に襲われ、意識を失って朝がたに警察に保護ざれるという事件に遭遇しました。渡欧後、5月にパリ・オペラ座では「ローエングリン」を指揮するところがリハーサルで監督と衝突して劇場を訴えます。8月にウィーンPOとザルツブルク音楽祭に出演してマーラーの4番とロイ・ハリスの3番ほかのコンサートと、「フィガロの結婚」を指揮し、その後ウィーン国立歌劇場で「ドン・ジョヴァンニ」を指揮しています。新シーズンからブダペスト国立歌劇場の音楽監督に就任しました。このポストは1950年7月に辞任(共産党の現場介入に嫌気がさして)したので、偶然にもブダペストの歌劇場音楽監督の就任後と辞任後しばらくの時期にブルックナーの第4番を指揮していました。
28 4月

ブルックナー交響曲第4番 ネルソンス、LGO/2017年

180427bブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調(1878/1880年第2稿ノヴァーク版)

アンドリス・ネルソンス 指揮
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

(2017年5月 ライプチヒ,ゲヴァントハウス ライヴ録音 DG)

 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(Gewandhausorchester Leipzig
)の楽長(カペルマイスター)に就任したアンドリス・ネルソンス(Andris Nelsons, 1978年11月18日 - )は昨年、音楽監督を務めるボストン交響楽団と来日しました。その時の演目にはショスタコーヴィチの交響曲第11番が入って(大阪公演も)いましたが、そのショスタコーヴィチをボストンSOと、ベートーヴェンの交響曲をウィーンPOとそれぞれ全曲録音する予定のようです(後者はまだ発売されていない)。それと並行してライプツィヒとブルックナーの交響曲の全曲録音が始まり、この第4番が第二弾でした。ここまで第3、4、7番と三曲がリリース済で、いずれもがワーグナーの管弦楽曲とカップリングされています。

170427a 実は最初そのワーグナーと組み合わせるという企画が気に入らないので購入していませんでしたが、ネルソンスがバイロイトでローエングリンを指揮していたことを思い出して何となく聴いてみる気になりました。このCDはそのローエングリンの第一幕への前奏曲がカップリングされていて印象深いものがありました。それはさて置きブルックナーの第4番も鮮烈な印象で、自分の中でこのコンビのブルックナーも追跡することに即決しました。第4番は曲の各楽章で魅力的な部分があると思いながらも、一曲を連続して聴くのは大変だと感じていて、個人的にブルックナーの呼応教曲の中では第3番と並んで聴く頻度が低いグループになっていました。第3楽章が単調で鈍重だとか、第4楽章だけが突出して威圧的と感じられると思いましたが、この演奏はそうしたマイナスの印象が払しょくされて、本当に快適(よい意味で)に聴けると思いました。

ネルソンス・LPG/2017年
①19分55②17分16③10分54④21分45計69分50
ブロムシュテット・LGO/2010年
①18分59②15分04③11分11④21分03 計66分17
ヤノフスキ・スイスROM/2012年
①18分15②15分30③10分53④18分46 計63分24
ズヴェーデン/2007年
①20分51②17分13③10分26④23分05 計71分35

 使用している稿・版は普通で、演奏時間も方も同稿による最近の録音と比べても突出している風ではありません。同じオーケストラを七年前に指揮して録音したブロムシュテットの演奏を思い起こすと、そこから弦の編成を減らしたようなより清澄でおとなしい印象でした。その分だけ盛り上り、特に終楽章の高揚は抑えられていますが第1楽章からそういう内容なので全く統一されています。こういう演奏スタイルならワーグナー作品とあわせて録音しなくてもいいのにとも思いますが、とりあえず先入観は禁物だと再認識しました。

 ネルソンスはバルト三国のラトビアのリガ出身、まだ三十代なのに写真を見ると貫禄もあり、もうちょっと年長に見えています(約10歳年長の私は頭髪だけがかろうじて勝っている)。プロフィールを見ると母国の国立歌劇場で首席指揮者になった後はオペラハウスよりもオーケストラのポストを歴任しています。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は歌劇場のピットでも演奏するのでオペラの全曲盤の方も気になります。とりあえずショスタコーヴィチの方は「ムツェンスク郡のマクベス夫人」も計画に入っているそうなので期待が持てます。
4 9月

ブルックナー交響曲第4番 ティーレマン、ミュンヘンPO

170904aブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB.104 「ロマンティック」(1878-1880年第2稿ハース版)

クリスティアン・ティーレマン 指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

(2008年 バーデン=バーデン,フェストシュピールハウス ライヴ収録 C Major)

170904b  この一週間、路線バスで東大路通を北上していると祇園石段下を過ぎたあたりにマハラジャという看板が目にとまりました。かつて営業していた有名なディスコが復活すると聞きましたが、全盛時にも自分は全く何の接点もなかったので感慨もありませんが意外に狭い場所なんだと妙に感心しました。祇園会館の1階と地下ということで1996年に閉店ということは、まだ営業している頃に祇園会館には何度も来ているはずがマハラジャの記憶は全然なくて、まるで記憶を操作でもされているように、当時の入り口の映像まで記憶が欠落しています(映画館の方は覚えている)。
そういえば1990年代、勤務地が京都じゃなかったからなおさら接点が無かったのかと、前を通り過ぎてしばらくして納得していました

  さて、それとは関係なくて今日9月4日はアントン・ブルックナー(Joseph Anton Bruckner 1824年9月4日 - 1896年10月11日) の誕生日だと twitter の中で見つけて久々に交響曲第4番をちょっとだけ聴いてみたくなりました。映像ソフトを部分的に再生するつもりが結局最初から最後まで連続再生してしまいました。

 ブルックナーに限らず何度も聴いている内にどれでも、どんな演奏でもそうそう変わらない、よっぽど技量が劣るオケ(素人が聴いてもあちこちが変と分かるくらい)でもないかぎりそれぞれ良いんじゃないかという気もしてきました。しかし、この第4番は一味違う特別な厳粛さで貫かれていて、実際演奏が終わって完全に余韻が消え切るまで15秒以上の静粛な時間が流れていました。やがて拍手が起こるとどんどん盛大になり、歓声もきこえてきました。この曲の終楽章は時にいかめし過ぎて、取り付くために手をかける箇所もないようなそびえる岩山のように感じられますが、この第4番はそんな風ではなくて作品観が変わるような気がしました。どこをどうしてこうなっているのか分からない内に全曲が終わりました。

ティーレマン・ミュンヘンPO/2008年
①20分23②17分16③11分46④23分44 計73分09
ティーレマン・ドレスデン/2015年5月23日
①19分11②16分48③11分08④23分13 計70分20

 
ティーレマンのブルックナーはこのところシュターツカペレ・ドレスデン映像ソフトの収録が進んでいますが、今回のものはミュンヘン時代にバーデン・バーデンで演奏した際のライヴでした。最新のドレスデンの公演と似た演奏時間ですが一応ミュンヘンPOの方が長くなっています。これまで、ことブルックナーに関してはティーレマンが特別とまでは思いませんでしたが、この演奏を視聴してさらに要チェックだと思いました。この上は第2番とかミサ曲、せめて第3番くらいは収録してほしいところです。
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raimund

昭和40年代生まれ、オットー=クレンペラーの大フアンです。クレンペラーが録音を残したジャンルに加え、教会音楽、歌曲、オペラが好きなレパートリーです。

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