オットー=クレンペラー 指揮
今年もクレンペラー(Otto Klemperer 1885年5月14日 - 1973年7月6日)の誕生日がやってきました。クレンペラー指揮のEMIのセッション録音以外が増えたものの、大半がEMI盤と重なる曲目なので強化期間もネタ切れ、息切れ感がしてきます。それでも19世紀生まれの指揮者はレコーディングに熱心でない、嫌いということが多く、クレンペラーも実演が聴けないところに音楽をもたらすもの、無いよりはマシという風に言っています。しかし、フィルハーモニア管弦楽団は元々レコード会社が設立したこともあり、このオケとレコードを作ることは娘ロッテのためだとして、そこそこ熱心に取り込んでいました。おかげで我々のような極東の住人もその演奏を知ることができたわけで有難いことです。
この音源はAudite Deutschlandra レーベルから出たクレンペラーがベルリンRIASの交響楽団を指揮した録音集の中の1958年分の一曲です。同レーベルからはクナッパーツブッシュやフルトヴェングラーのベルリンでの音源集が出ていてその音質の良好さも定評があります。今回の1958年3月29日はエグモント序曲、ベトーヴェンの交響曲第2、第3番というプログラムであり、1960年のウィーン芸術週間のベートーヴェン・チクルス初日と似た内容(ウィーンでは献堂式序曲)です。この年の秋にクレンペラーは自宅で大火傷を負い、翌年の半分くらいは活動できなくなったのでEMI・フィルハーモニア管弦楽団の最初の絶頂期とでも言える時期の最後という位置付けです。
ベルリンRIAS/1958年
①13分05②11分46③3分44④6分39 計35分14
このレーベルのベルリンRIASの録音集には(聴衆無し)スタジオ録音と表記されたものがありましたが、この1958年のオール・ベートーヴェンプログラムはライヴと表記され、客席の雑音も入っています。ただ、演奏後の拍手等は入っていません。演奏時間を比べると1955年のBBCSOとのライヴ、1960年ウィーン芸術週間ライヴと同じく35分台の合計時間です。音質の関係からかこのベルリンでの第2番が特に流麗で、ちょっとモーツァルト的な感覚です。それもクレンペラー指揮のモーツァルトよりもスマートなと言えば矛盾するかもしれませんが、とにかくクレンペラーにしては流れるような感覚の第2番です。
また、透き通るような美しい響きも独特で、これと似た感覚はテンポ感は少々違うもののケルンRSOとのドン・ジョヴァンニや同じくケルンRSOとの第九の演奏で感じられました。先日の北ドイツ放送交響楽団のベートーヴェンに「灼熱のクレンペラー」というコピーが付いていましたが、それとはまったく逆の寒ざらしのクレンペラーか冷水のクレンペラーといったところです。実際に演奏している会場で聴いていたならそんなに違わないかもしれませんが、CDを経由すると結構違います。