カール・ベーム 指揮
マドレーヌ:エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)
リヒャルト・シュトラウス最後のオペラ、カプリッチョの全曲盤は案外数が少なく、作品自体が「ばらの騎士」ほどはメジャーじゃないこともあってか決定盤的な評判のレコードなりCDが前面に出てくる機会もあまり無いようです。そんな中でベームのDG盤はかなり好評のようでした。個人的には特別な感銘度ではなく、過去記事で扱ったものの内心で何とコメントしたものかと思っていました。それはルチア・ポップとホルスト・シュタイン、バンベルクSOらが月光の音楽以降、最後までを抜粋録音したものの印象が強烈で、マドレーヌなら彼女の声をまず思い出すようになり、他のものは耳に入りにくい症状だったからでした(シュタインとバンベルクSOも素晴らしかった)。
これはDG盤の約十年前にウィーン国立歌劇場で収録したもので、マドレーヌがシュヴァルツコップであるほか、一世代前くらいの名前が並んでいます。冒頭に拍手が入り、弦楽六重奏の前奏曲のところで既に優雅な別世界に連れてこられた心地になり、一気に引き込まれます。これはベームだからか、ウィーンだからか、それよりもライヴ音源の音質やら拍手なんかの影響なのかもしれません。ほとんどセリフだけの箇所でも何をしゃべってるか分からないながら得も言われぬ魅力を感じます。
先日の「アラベラ」の時も思ったのがカプリッチョやアラベラのよう作品は特に場面の空気というのか、演奏だけで現わせないかもしれない情緒のような要素も大きなウェイトを占めそうで、これは聴き手側が作品世界と同じ文化圏に生きているとか色々共有しているかどうかも関係しているとも想像できます。そうだとすれば自分の場合は間違いなく門外漢のはずですが、物珍しさか憧れなのか実態は分からないのに聴いていると妙に惹きつけられます(反感や疎外感ではなく)。
カール・ベームは日本でも一定の年代まで絶大な人気だったようですが、その当時はベームのレコードを購入できる年代じゃなかったのでごく一部しか聴いておらず、カヤの外状態でした。その後CD化されたものを聴いていると個人的にはあまり惹かれるものはなくて、ワーグナーの指環四部作(バイロイト)か、1950年代のブラームスとかくらいが例外的に良いと思ったくらいでした。このカプリッチョはそれに並ぶかそれ以上の感銘度なので、さすがシュトラウス門下だと改めて思いました。