ヴィルヘルム・フルトヴェングラー 指揮
いつの頃からか生命保険を契約する場合、職場経由で加入する例がありました。例えば建設関連の会社に勤務していると半自動的に特定の保険会社の保険に入り、月給が振り込まれる口座から保険料が引き落としになりました。定年退職後か、一定の年齢で死亡時におりる保険金が少ない契約に変更を勧められますが、月々の保険料は変わらない場合が大半です。もっとも、退職に際しては契約を継続するかどうかの意思は確認され、その際に私は契約者当人じゃないけれど横に座って聞いたことがあって、もう解約した方がいいんじゃないと思いましたが、当人の体面もあるので「(年金生活になって収入が減っても)保険料は同じ水準ですか」とだけ言うに止めました。外交員に苦言を言うのも筋違いかもしれませんが、少しは契約者の境遇も考えるなり、プラン・約款の種類を見直したらどうかと思いました。半自動的と言えば保険だけでなく、勤務している会社によっては特定の議員の後援会の会員になったたり(強制ではない/かたちだけでもとか言われるらしい)します。ついでに継続を強く推奨されるA旗・日曜版の購読料は一ケ月で千円弱、Y新聞の朝刊のみなら月額でその四倍くらい、仮に生活保護の受給者ならこれら新聞の扱いはどうなるのでしょうか。国内の建設業界も受注額、従事者も減り、保険や後援会の運用・慣例はどうなったか分かりませんが、ドイツではナチス政権の頃はアウトバーン建設やらで一番景気がよかったとか、戦後も語り草だったとか。
先日のフィデリオが1944年2月の演奏だったのに対して、この有名なウラニアのエロイカは同年12月の演奏です。シュナイダーハン、バリリがウィーン・フィルのコンサートマスターだった頃の演奏なので特にエロイカの方は二人とも演奏していたのでしょう。フルトヴェングラーの許可を得ないで勝手にレコード発売されて裁判沙汰になったこの音源は、CDの時代になっても複数のレーベルから何度も発売されています。どれが最良の音質かとかを追求したサイトもあり、半端な興味では全然極められない世界です。これは盤起こし、LPレコードから作成されたCDの中でDELTAレーベルのものです。一連のウラニア・エロイカはピッチが高いLP、CDが多く、それは音源となった元のテープがその状態、録音時にテープ速度が遅かったのが原因とされています。このDELTA盤はピッチ修正済で、参考に修正前の第1楽章を末尾におさめています。
フルトヴェングラーのレパートリーの中でベートーヴェンが一番良い、又はベートーヴェンの演奏はフルトヴェングラーに限る的な評は結構あり、後者ではマタチッチもそのように言っていたようです(ただし当人の指揮したエロイカは全然違う)。自分自身は全然そうは思いませんが、この演奏の当時は非常事態なので、どんな演奏なのか気にはなります。それで聴く前につい身構えて、特異なものじゃないかと想像しがちです。実際に聴くとここまで大騒ぎする程かとか、不敬にもそんな印象はぬぐえません。そもそも大戦末期の放送用録音ということで元々音質はよくなくて、今回の盤起こしCDで聴いても例えば第1楽章冒頭はグワン、グワンという具合に、残響がこもり切ったような音で、演奏内容もなかなか分かりにくいと思います。そこは愛情をもって色々なことを含めて類推を働かせて聴くものかもしれません。それでも第2楽章以降はある程度聴き易いと思いました。その第2楽章は「ジークフリートの死の予告(ワルキューレ)」の場面を思い起させて、悲壮感が漂います。
この音源は客席にほぼ誰も居ない状態の放送用に録音した演奏です。19世紀生まれの指揮者はレコード録音があまり好きでなかったり、レコード録音を軽視して直に会場で演奏を聴くことの代用(無いよりはまし)程度にしか考えない人が多いようです。そういう人の演奏、本当の演奏は実演を聴かなければ真価が分からない、という論調がありました。その線で行けばこのウラニアのエロイカは公演そのものじゃないわけですが、ついライヴ音源と混同してしまいます。当時のドイツ領でこの演奏をラジオを介して聴いた人はどのように響いたことか。