ケント・ナガノ 指揮
ボリス・ゴドゥノフ:アレクサンドル・ツィムバリュク(Bs)
このSACDはムソルグスキー(Modest Petrovich Mussorgsky 1839年3月21日 - 1881年3月28日)のオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」の初期稿(1869年稿)を演奏会形式で上演した際の録音です。ケント・ナガノはこのオペラを同じ稿でミュンヘン・オペラで上演した際に
を残しています。その上演は現代に置き換えた演出によるもので、各国首脳の肖像が登場して日本の総理大臣のあの顔も使われていました。近年は日本国の首脳は短期間で入れ替わり、外国では名前も顔も覚えられないようでしたが、これは良くも悪くも?珍しいことでした。そういえば「募る」と「募集」ネタでネット上が賑わっていたので動画を観たら本当にそういう答弁だったので感心しました。ミュンヘン・オペラの演出は聖愚者が短銃で射殺される陰惨な内容でしたが、このSACDは演奏会形式なのでどんな舞台を客席、演奏者が脳内で補完しているだろうかと思って聴いていました。
音質、ホールの残響加減の影響かかなり清新で洗練された響きに聴こえ、戴冠式の場では一瞬メシアンの作品を思わせるくらいだったので、非西ヨーロッパ的な土埃が立ち込めるような土俗的な空気はかなり後退していると思いました。一回目に聴いた時は独自のカットや改訂でも施しているのかと思いました。こういう演奏なら二幕の初期稿じゃなくても良さそうな気もしました。ただ、これまでのところ初期稿のCDはこれ以外にゲルギエフとマイリンスキー劇場くらしか無いので貴重です。
「ボリス・ゴドゥノフ」は完成した当初(1869年に完成)、初期稿は宮廷劇場で上演が認められなかった(翌1870年の夏に帝室歌劇場へ提出したが上演を拒否される)ので改訂版を出すことになり、それが1872年6月に完成しました。全曲の初演はその一年後の1873年2月5日、ペテルスブルクのマイリンスキー劇場でようやく行われました。この一連の流れはブルックナーの交響曲第2番に似ていますが初演は成功したのでまだましでした。しかしロシア国外で普及したのは作曲者自身による改訂版よりも、R.コルサコフ版でした。女声のアリア、有名アリアが無いという点では20世紀以降のオペラでは別に珍しくありませんが、この初期稿は画期的な内容・構成だと思います。