raimund

新・今でもしぶとく聴いてます

P:バックハウス

22 7月

ベートーヴェン ピアノソナタNo.1 バックハウス

210720bベートーヴェン ピアノソナタ 第1番 ヘ短調 作品2-1
第1楽章:Allegro 2/2拍子 ヘ短調
第2楽章:Adagio 3/4拍子 ヘ長調
第3楽章:Menuetto, Allegretto 3/4拍子 ヘ短調
第4楽章:Prestissimo 2/2拍子 ヘ短調

ウィルヘルム・バックハウス:ピアノ

(1953年11月 ジュネーヴ,ヴィクトリア・ホール 録音 DECCA)

 いよいよ日中の最高気温が体温以上になる猛暑の日々がやってきました。朝の天気予報では屋外での運動は避けるように注意喚起されていました。そんな中、五輪の開会式に先立ち女子ソフトボールとサッカーの試合が始まりました。最近は地下鉄の車内アナウンスでも「安心安全」という語句を使っていて、それを言えば呪言のように何か効果があるのかと言いたくなってきます。夜になっても暑くて、高温のために蚊もとばないくらいです。ベートーヴェンの作品番号1は何だったか、エアコンを「切りタイマー」に設定しておいて寝て、タイマーが切れて間もなく目が覚めて寝付けない時にそれを考えていました。

  たしかピアノ・ソナタでは無かったはずで、弦楽三重奏でもなくて、調べるとピアノ三重奏の第1番から第3番までが作品1-1、1-2、1-3になっていました。ピアノ・ソナタは第1番から第3までが作品2になっていました。それからピアニストでベートーヴェン弾きと言えばだれが思い浮かぶかと、誰にも問われないけれど考えてみるとなかなか決まらず、ピアノ・ソナタなら個人的にアニー・フィッシャーがまずベートーヴェンらしいという点で思い浮かびます。その次はアンドラーシュ・シフくらいで、あとはソナタ全曲を聴いたわけではないもののゲルバー、ギレリス、最近関心が増したアラウといったところです。

 もっと古い世代で有名なのはバックハウスとケンプで、いよいよ梅雨が明けて酷暑になってテレビも面白くないので寝る直前に両者の旧全集でベートーヴェンのソナタをちょくちょく聴き出しています。両者ともステレオの再録音が有名ですが、特にバックハウスは旧録音も素晴らしいと思い、あえて言えば旧全集なら バックハウス > ケンプ じゃないかなと思いました(そう言えばウノ本でケンプよりもバックハウスと書いてあった かしら)。

 ピアノソナタ作品2-1は1795年に完成して作品2-3までの三曲がハイドンに献呈されています。個人的には作品2-3が特に好きでしたが久しぶりに聴くとどれも魅力的だと思います。ベートーヴェンは1792年にウィーンでハイドンに師事していてハイドンんが1793年に英国から戻ると作品2のソナタの作曲を始めたようでした。ハイドン、モーツァルトのソナタが3楽章が多かった当時にどれも4楽章から構成されていて、既に独自の作風が出ています。バックハウスのモノラル録音の旧全集で聴くと第1番もマンハイム楽派、ハイドンらとは一線を画する内容というのが際立ってきます。
25 7月

ベートーベンのピアノソナタ第32番 バックハウス旧録音

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 op.111

ヴィルヘルム=バックハウス : ピアノ

(1953年11月 ジュネーヴ,ビクトリアホール録音 DECCA)

120725a  第三帝国時代にメンデルスゾーンの作品が抹殺される危機にあったというのは、作品を思い起こすにつけ意外としか思えません。これは権力者の嗜好が大きくものを言っていたのでしょう。一方でヒトラーは、バックハウスの演奏が好きで彼のフアンだったということですが、ライプチヒ生まれのバックハウスは七歳でメンデルスゾーンが創設したライプチヒ音楽院に入学して本格的な学びをスタートさせました。滝廉太郎も留学したライプチヒ音楽院は、現在は「音楽演劇大学」として続いているので、ナチ時代も無事だったわけです。

 このCDはバックハウスが60歳代後半から70歳の頃に録音したベートーベンのピアノソナタ全集の中の1枚で、作品109から111の三曲(第30、31、32番)が一枚のCDに入っているものです。何年か前にこれをアイポッド(ipod)に入れて電車の中で頻繁に聴いていたものです。後期の三つのソナタが番号順に入っているわけですが、今回の第32番・作品111の演奏が一番素晴らしいように思えて、特によく再生していました。

120725c  ピアノソナタ第31番は「のだめカンタービレ」の後半で取り上げられて注目されましたが、今バックハウスの旧録音で聴くと、この演奏は切り詰められ過ぎて、人間的ななまの情感が取りつく島が全く無いように感じられます。その影響もあって、のだめにその曲が出てきた時は場違いなような気がしました。それはともかく、バックハウスの演奏はそんな感じなので、誇大妄想的となヒトラーが彼のフアンだったことは非常に結びつき難いと思います。後期、最後の三曲の内で第31番がいまひとつではないかと思われた例は、アンドラーシュ・シフのライブ録音のCDも同様で、シフの場合も第32番が一番魅力的だと思いました。シフはさて置くとして、同じ時期にバックハウスが録音した後期作品なのに、第32番はそれほど即物的な印象を受けないのは何故だろうかと思います。

ピアノソナタ 第32番 ハ短調 作品111
第1楽章 Maestoso - Allegro con brio ed appassionato ハ短調
第2楽章 Arietta. Adagio molto, semplice e cantabile ハ長調

 バックハウスは、モノラルの全集の後、もう一度ベートーベンのピアノソナタ全集の録音に取り組み、第29番作品106以外は録音を完了させています。旧全集の時も七十歳に差しかかり肉体的、技術的には峠を越えていましたが、再録音時は七十代後半から八十代でした。晩年になってたて続けにベートーベンのピアノソナタ全集の録音に取り組んだことは驚くべきことです。最初の全集を完成した時に、バックハウスを聴くならベートーベン、と言われていたのが「ベートーベンを聴くならバックハウス」に変わったと解説書に載っていました。改めて演奏を聴いていると何となくそのニュアンスが分かる気がしまた。

バックハウス・1953年
①8分04②13分12 計21分16

バックハウス・1961年
①8分14②13分09 計21分23

120725b  音質はさすがに再録音のステレオ盤の方が良く、旧盤は貧弱に聴こえてしまいます。そんな音質の違い程は新旧の演奏は違うのか、自信をもって言えませんが旧録音の方が少々張詰めて、より緊迫感のある演奏かもしれません。第31番の方は(今回は改めて聴き直していませんが)、再録音の方がゆったりとして聴き易かったという記憶があります。何年か前に今回の旧録音で第32番を聴いていた時は、圧倒的な高みに思えたのですが、改めて聴いているとよっと色褪せて聴こえています。

シフ・2007年
①8分42②18分03 計26分45

 ちなみに近年のシフによる録音は上記の通りです。最近の企画、名曲名盤300(レコード芸術誌・2009年7月号)の中のベートーベンのピアノソナタ第32番は、バックハウスの再録音盤がかろうじてリストに挙がっていましたが、旧録音は圏外でした。ポリーニやリヒテルとゼルキンの最晩年ライヴ盤が人気を得ていました。バックハウスの旧全集はさすがに過去のものとなってきています。今回は、一方で頽廃音楽やら人種的問題で排斥される作曲家、演奏家があった中で、片方でそれを行った権力者に好かれた、或いは排斥されなかった側の演奏家があり、両者にはそういう扱いをもたらすような差があるのか?という疑問の感情から、メンデルスゾーンとシフのCDに続いて挙げてみました。

9 2月

バックハウスのベートーベン31番

Photo  写真は、宇治川(京都府宇治市、大阪湾へ注ぐ淀川の上流)の中州で、この時季は冬枯れの低木が見られるはずですが、見事に伐採されていました。河床を掘る等の改修工事が始まるようです。噂の事業仕分をかいくぐったということでしょうか。メディアが伝えるのは断片的、象徴的な事柄だけですが、スパコンの開発予算で「世界一でなければいけないのか?」という件は部外者ながら、少々カチンときました。

 往年のドイツ人ピアニスト、ウィルヘルム・バックハウスはベートーベンのピアノソナタ全集を2度録音しています。厳密には、第29番は再録音できず、その曲だけ重複して全集に入れられています。実は両方とも手元にあるのですが、事業仕分的価値観でいきますと、2つも要るんですか?ということで抗弁に困るところです。

 31番は、53年と63年とまる十年をあけて録音されています。前者はモノラルです。バックハウスの演奏は、嘆きの歌とかそういう情緒的な面を排して、川の最上流、源流部のような澄んだ清水のような印象と、武骨に一気に突き進むような力強さの二つの面を感じさせられます。即物的とは言えないまでもやや素気なく感じます。31番の録音では、旧録音の方がその傾向が顕著に思えます。個人的には、そのモノラルの旧録音の方を好んでいました。

Photo_3   新録音は1963年録音で、バックハウスが79歳の年に当たります。指揮者と違い、自ら楽器を弾いて音を出す演奏者にとって年齢に伴う肉体的衰えというのは一層重大な要素であるはずです。この31番の新録音は、ピアノを習ったこともない素人の私でも何となく心もとなく感じられますが、それでも人を惹きつける力があり、作曲者がこの曲を作った時もこのようであったかもしれないとも思わされます。

 ベートーベンは、31番と同じ調性の変イ長調のピアノソナタをあと一曲書いています。31歳の時完成させた第12番です。その頃と比べ、31番を書いた頃は作曲家としての名声は得ても、聴力等健康の衰えは顕著であり、六年後には世を去ることになります。

 日本人は指揮者等では老巨匠を有難がる習性がありますが、バックハウスのこの31番の新録音は、二度の大戦等人生の風雪を経た演奏者がたどり着いた境地と、作品の風景とが重なり、何度も立ち戻りたいような魅力を感じさせるものだと思いました。 

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昭和40年代生まれ、オットー=クレンペラーの大フアンです。クレンペラーが録音を残したジャンルに加え、教会音楽、歌曲、オペラが好きなレパートリーです。

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