ダニエレ・ガッティ 指揮
第一の聖杯守護の騎士:アルノルド・ベゾイエン(T)
第二の聖杯守護の騎士:フリーデマン・レイリヒ(BS)、ほか
七月も終わりに近づいています。天神祭、祇園祭よりもバイロイトがちょっと気になります。それでドイツになんか簡単に行けない身としては、過去にFM放送を録音したバイロイトの公演を聴こうと思い立ちました。VHSビデオデッキ、レーザーディスクプレーヤー、DATテープデッキといった機器は既に製造販売は中止になりました。過去の遺物となったそれらの中で、DATデッキは平成11年頃にパイオニア製のものを購入してNHKFMで年末に放送されているバイロイト音楽祭の公演を録音するのに使いました。2001年、2002年、2009年、2014年はまとまったかたちで残せて、特に2009年はeo光の光テレビのサービスでFM放送も聴けたので、雑音がほぼ無い状態で録音できました。それで2009年のパルジファルを再生して聴きながらデジタルレコーダーでSDカードに保存録音しました。最初にDATテープに記録する際はロング・プレイ(LP)モードでしか全部を録音できなかったので、サンプリング周波数をCDディスクと同じにできませんでした。だからSDカードへ録音する際はアナログ接続でやっているわけです。
さて2009年(平成21年)のバイロイト音楽祭は指環四部作、トリスタン、マイスタージンガー、パルジファルが演目で、いずれも新演出ではなかったようです。パルジファルはイタリア人のダニエレ・ガッティが指揮ですが21世紀になって非ドイツ語圏出身でも別に珍しくありません。番組中の解説(東条氏)でもふれられていたオーケストラの透明な響きの美しさはこういう媒体を介しても格別で、この作品らしいのかどうかはともかくとして、クリンクゾルでさえ浄化されて聴こえます。この年の演目でコーラスが活躍する場面は限られているのでパルジファルでのバイロイト祝祭合唱団のすばらしさが目立ったと解説でふれられていました。
独唱陣の中で目立ったのはクンドリの藤村さん、グルネマンツのユン・カンチョルと言えばアジア人の身贔屓かもしれませんが、二人とも斬新さも感じられてよかったと思いました。2009年の公演について今更ですが、クンドリは人間らしさが終始感じられてエキセントリックな面が後退して逆に良かったと思います。グルネマンツは解説で往年のホッターかと一瞬だぶって聴こえたという評がありましたが、声質からちょっと若々しさも感じられて、そっちの方に惹かれました。舞台演出では最後にグルネマンツとクンドリの間に少年が手をつないでいる姿出るので、二人は結ばれるのだろう(という演出)と解説していて、この二人の歌唱、声だったらそういう演出もはまりそうだと思いました。ガッティ指揮のパルジファル は2013年ニューヨークの舞台が映像ソフトで出ていました。キャストも演出も違います。演奏、音楽はこのバイロイトの方がより清々しく、明るい印象なのは会場の音響のおかげかどうか。
会場の反応は第一幕が終わった後にブーイングが目立ち、第二幕も結構騒々しい反応でしたが第三幕が終わった時は案外静かでした。第二幕はパルジファルが聖槍を投げてハーケン・クロイツの旗(ナチのあれ)が壊れるという演出が癇に障ったのか、今更という白々しさなのか、ナチスの時代をクリンクゾルの魔法による一過性のものととらえるかのような軽さが反感を生んだのか、いかにもバイロイトらしい騒々しさのようでした。ちなみ第三幕はベルリンの国会議事堂内部が舞台になっていたそうで、やっぱり神秘的な舞台とは程遠いようです。