raimund

新・今でもしぶとく聴いてます

指:ティーレマン

22 4月

ベートーヴェン交響曲第1番 ティーレマン、VPO/2008年

230422ベートーヴェン  交響曲 第1番 ハ長調Op.21

クリスティアン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

撮影監督:ブライアン・ラージ

(2008年12月 ウィーン,ムジークフェラインザール収録 C Major)

 早々に桜は散ってしまい藤も終わりかけでツツジが満開というところで、新型コロナの感染者数は下火になっています(ゼロではない)。隣の府では人口に対する死亡者がかなり多かったことなんかはすっかり忘れられて、自治体の首長がよくやったと印象付けられています。京都市内では昨年10月に母を救急搬送してもらった際、まだ病院は野戦病院のような状態で、各患者全員について予後とかを考える余裕は無さそうでした。あの時点でもそんな惨状なので、医療崩壊ではないとかTVで口喧嘩していた頃だったら目も当てられなかっただろうと想像できます。刑務所を出所しても再犯で戻って来る率はそこそこあるわけですが、救急搬送して即座に送り出された場合でも短い間隔で再搬送されて来る、さらには棺で送り出されるケース、これを再何率と呼ぶのか、そういうのは結構あるだろうなとしみじみ思いました。

 これは映像付きソフトとCDの両方で発売されたティーレマンとウィーン・フィルによるベートーヴェン・チクルスのライヴ収録の第1番・ブルーレイ盤です。ベートーヴェンの交響曲演奏は今世紀に入ってベーレンライター社から出版された原典版楽譜、ピリオド楽器、モダン・オケに一部その楽器や奏法、弦を取り入れるということが浸透しました。ティーレマンとウィーン・フィルのベートーヴェンはそれらの流れとは一線を画する演奏としても注目されました。なんだかんだ言っても14年以上前の演奏ということになりますが、値引き再発売の際に購入していたのを最近ようやく視聴し出しました。当初はCDにしておこうとして何曲か聴いたところ、どうも音が良くない、昔のようなセッション録音じゃないにしてもちょっとなあと思って継続を断念していました。今回はブルーレイソフトの方を2チャンネル音声で聴いてみるとなかなか良好で、すくなくとも最初のCDよりはかなり良さそうです。

 画面には指揮台の正面奥にコントラバスが陣取り、ヴァイオリンが左右に分かれる配置です。今世紀に入ってから両翼対向配置をとる指揮者が結構あるようですが、ヴァイオリン以外の楽器の位置は結構違っています。このベートーヴェンは意外な程に重厚さが前面に出ず、各パートのバランス、優雅さが魅力的です。カラヤンやフルトヴェングラーよりもシューリヒトを少し思い出させました。第1番でもクレンペラー、セルあたりの1960年代のレコードならもっと重厚で堅固な響きを感じていたので、ティーレマンのベートーヴェンも復古的なものでもなさそうです。

 更に意外だったのは第3楽章の速いテンポで、この楽章はピリオド楽器系の演奏に似たものを感じて、ここの印象は結構効いてくると思いました。ティーレマンのレコーディング・デビューだったフィルハーモニア管弦楽団とのベートーヴェン第5、第7番ではこういう傾向は無かったはずです。このブルーレイの最後のトラックには同じくウィーン・フィルとのエグモント序曲が入っていて、その指揮ぶりは出だしのところをやたら強調していて、そのあとはテンポを落として、後半との対比が鮮明になるようにしています。こういう計算、演出的なところがだんだん増してきているようで、バイロイト音楽祭の年末放送でも言及されていました(年々効果的になっていると)。
4 3月

ブルックナー交響曲第9番 ティーレマン、ウィーンPO/20

230304ブルックナー 交響曲 第9番 ニ短調 WAB109

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2022年7月28,30日 ザルツブルク,祝祭大劇場 ライヴ録音 ソニーミュージック)

 特に昨年はブルックナーの交響曲一曲を通して聴き難い環境にあって、どうもブルックナー不足が慢性化していました。それでもブルックナーの新譜は優先的にチェックしていて、ティーレマンのシリーズはいよいよ第9番です。この国内盤CDの付属冊子裏表紙に「近日発売」と冠して、ティーレマンとウィーン・フィルによるブルックナー交響曲全11曲(00、0番も含むらしい)のセット発売予告が載っていました。また分売が全部出ないうちに箱物を先行させるようで、パーヴォ・ヤルヴィの時も第8番と第0番の単売を残した段階でセットを発売していました。結局残り二曲も後から販売したのだから文句はないでしょ、というところかもしれませんがティーレマンの場合はどうなるか。

 この第9番の演奏は未完に終わった最後の交響曲という方向でそれまでの作品と別物という扱いではない感じでした(付属冊子にあるティーレマンの解説とは裏腹に)。第2楽章はもっと威圧的になるかと思えばそうでもなく、第1楽章以外は比較的なだらかな内容で、自然に感銘深い演奏でした。ティーレマンとウィーン・フィルでは第8番なんかは手がこんだ演奏といった印象だったのに対して、今回の第9番はかなり自然体で演奏しているように聴こえます。最近の第9番では昨秋のイヴァン・フィッシャーのものが印象的ですが、ティーレマンの方はザルツブルクでライヴ収録したもので音、響き方も違っています。フィッシャーの方が隔絶した峯といった感覚で街の営みを感じさせない透明感で迫ってきました。

ティーレマン・VPO/2022年
①23分16②10分20③23分46計57分22
ティーレマン・SKD/2015年
①24分57②11分15③26分39計62分51
ブロムシュテット・LGO/2011年
①24分37②10分24③23分30 計59分31
P.ヤルヴィ・2008年
①27分41②10分50③27分06 計65分37
ヤノフスキ・スイス/2007年
①24分57②10分53③25分51 計61分41
ヴァント・NDRSO/2000年11月
①26分50②10分29③24分59 計62分18
ヴァント・BPO/1998年9月
①26分12②10分35③25分12 計61分59 

 映像ソフトのシュターツカペレ・ドレスデンとの演奏と比べると各楽章とも演奏時間が短くなっています。これは表記された時間の中に演奏後の時間も含まれていたりするからだと思いますが(未確認)、演奏自体は速くなったという感じはしないで、逆というか、より落ち着いたという感覚です。ティーレマンがウィーン・フィルを指揮して最初にブルックナーを演奏したのは2003年11月、東京でサヴァリッシュの代役としての交響曲第7番だったそうですが、もう20年近く経ったという感慨と今世紀に入ってからかという意外さが混じります。今世紀に入ってもブルックナー作品は連続してレコーディングされています。改めて「ブルックナーらしさ」、「ティーレマンのブルックナーとは」等を考えると、それはこうだとなかなか確定的にとらえきれいないものだと思います。

 ティーレマンは第3楽章のアダージョについて「自伝的な動機」に動かされているとして、「苦悩に満ちた主観的表現、~ぎりぎりの限界まで引き伸ばされる緊張感」と「信仰子告白-死に直面しての祈り」という二重の意味があるとしています。これは繰り返し聴いている内に実感できればと思いました。
3 9月

ブルックナー交響曲第5番 ティーレマン、ウィーンPO/2022年

220903bブルックナー 交響曲 第5番 変ロ長調 WAB105(ノーヴァク版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2022年3月5-7日 ウィーン,ムジークフェラインザ-ル 録音 ソニーミュージック)

 もう九月になりました。今年は高齢者の生活時間帯に合わせるようになって、何となくハンス・カストルプ(「魔の山」トーマス・マン)のような立場です。テレビのCS放送を観る機会が極端に減り、インターハイのバスケはどうなったかとネットで結果を確認する日々でした。女子では連覇を繰り返す愛知代表の桜花が敗れ、そこで勝った京都代表の精華が初優勝しました。陸上競技やバスケットボールでは何年も前から留学生を起用して優位に立つ学校、部が出ていて、桜花、京都精華もその一つでしたが、決してワンマンチームというわけでもありません。硬式野球はまだそんな傾向は出ていないようですが、特待生の件とか少し似た面もありました。それにしても桜花が負けるとは予想しておらず、個人的には大阪桐蔭の敗退以上の衝撃でした。それはともかく、夏がいってしまう頃にティーレマンとウィーン・フィルのブルックナーのシリーズから第5番、国内盤が出ました。さっそく聴いてみるとこれがなかなか素晴らしい。

~ティーレマンのブルックナー第5番
 
VPO/2021年
①22分47②19分00③14分51④25分16 計81分54
SKD/2013年(映像)
①22分15②19分53③14分12④25分06 計83分26
MPO/2004年
①22分43②20分07③14分42④25分21 計82分53

 第1楽章の冒頭、序奏の直後に勢いよく走る風なタイプではなく、「じっくりかまえたブルックナーだ」という言葉が思わずよぎる神妙な出だしです。基本的に今世紀に入って増えている速目のテンポで流動感が前面に出るタイプではなく、かといって最初に出版された所謂改訂版の内容を志向するものでもなく、前世紀の末に発症し出したブルヲタにも好印象な、「ブルックナーらしい」第5番じゃないかと思いました。演奏時間、トラックタイムをみると過去の録音よりもアダージョ楽章が短めに、スケルツォ楽章が長目になっています(わずかながら)。これは交響曲を演奏する場合のクレンペラーのバランスに通じています。

 しかし演奏内容はクレンペラーのような巨岩が空から降りてきて組み上げられるような印象ではなく、ずっとしなやかです。ウィーン・フィルだから余計にそう感じるのか、金管も甲高いような吠え方じゃなく、各パートとも優美な響きです。ティーレマンが1970年代に初めてブルックナーの第5交響曲を聴いた時の体験が解説冊子に載っていました。カラヤンとベルリン・フィルの公演だったそうで、「完全に方向感覚を失い混乱状態に陥った」、「ぼうっとしたまま駐車場までよろよろと歩いたが、頭の中はまだコラールのサウンドでいっぱいだった」と。ちなみにこういう反応はフランツ・シャルクと似ているのだそうですが、ティーレマンはその改訂版を(当然)是としていません。

 ティーレマンとウィーン・フィルのブルックナー・チクルスは00番、0番も含んで既に収録が終わっているようです。しかも映像も収録されていてTVでも放送され出しています。先月末に第5番が国内盤で発売されました(既に第2~4、8番は出ている)。同じ指揮者による交響曲の全曲録音はウィーン・フィルにとってこれが初めてで、しかも習作も含まれています。「共同体の音楽=ブルックナー、個人の音楽=マーラー(ベンジャミン・ザンダーの言葉)」、1968年にウィーン・フィルへ客演してこの曲を指揮したクレンペラーは、同時期に指揮したマーラーの第9番よりもブルックナーの方が良かったとして、ウィーンフィル、ウィーンの受容度はマーラーより断然ブルックナーの方が進んでいる、深いという意味のことを言っています。というよりもマーラーの方は外から来た異分子的なニュアンスさえこめられているようでした。何にしても21世紀になってようやくウィーン・フィルのブルックナー全集が完結するわけです。
4 2月

ブルックナー交響曲第2番 ティーレマン、VPO/2019年

220204bブルックナー 交響曲 第2 番ハ短調 WAB102(1877年第2稿キャラガン校訂)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2019年4月25-28日 ウィーン,ムジークフェライン大ホール ライヴ録音 Sony Classical)

 年が明けてから漫画家のムロタニツネ象(1934年9月9日-2021年11月22日)の訃報がニュース欄に載りました。自分が小学校低学年の頃に読んだ「漫画日本史」はかなりはまって、何回でも読み返していました。仰向けに寝転がっている状態で読んでいる時にそのままの状態でクシャミをして、たまたま鼻血が出ていたので見開きに血しぶきがかかり、そのご抽象画のような痕跡になって残りました。ちょうど桶狭間の合戦後くらいで終わったので、続きの巻を探したところ全然売ってなかったのが思い出されます。
ムロタニ氏の歴史ものの漫画は多数あるようで、自分が読んだのは教師(ムロタニ氏本人)と生徒(シロー君、坊主頭)が各時代の世界に赴き解説するというスタイルでした。

1877年稿(第2稿)・Wキャラガン校訂版
1楽章:Moderato
2楽章:Andante;Feierlich, etwas bewegt
3楽章:Scherzo;Mässig Schnell-Trio.Gleiches Tempo
4楽章:Finale;Mehr schnel

 店頭で購入と言えば今回のブルックナー第2番、発売日に買いに行ったところ既に売り切れで、追加発注したときき、今でも新譜を待ち構えているフアンというかヲタ、暇人は居るのだと少々心強くなりました。ティーレマンとウィーン・フィルだから注目されたのか、CDが売れないと言われてひさしい昨今にしては、地方都市にしては珍しい状況です。

ティーレマン・VPO/2019年
①18分02②18分03③06分42④15分10 計57分57
ティーレマン・SKD/2019年
①18分34②18分08③06分35④15分01 計58分18
P.ヤルヴィ・ベルリンPO/2019年
①17分26②17分10③06分39④15分23 計56分38
ヤノフスキ・スイスロマンド管・2012年
①17分47②14分21③08分46④13分58 計54分52
P.ヤルヴィ hrso/2011年
①16分41②17分05③06分28④15分44 計55分59
ヴェンツァーゴ/2011年
①16分13②17分42③07分02④15分30 計56分27

  現在進行中のティーレマンとウィーン・フィルによるブルックナー交響曲シリーズから第2番が出ました。録音はコロナ問題の前、2019年4月でした。シュターツカペレ・ドレスデンとの映像ソフトの第2番も2019年年の収録だったので、それから二カ月くらいしか経っていません。楽譜は1877年稿(第2稿)の新しいキャラガン校訂版を使っているのもドレスデンとの演奏と同じです。出版されたのが2007年ということで、ここ十年くらいでこれを使って演奏したCD等が増えています。パーヴォ・ヤルヴィはブルックナーの初期作品を演奏する時は後期の大作とは違うやり方が要ると言っていたけれど、ティーレマンの場合は極端にそんな感じでもなかったとドレスデンの時は思いました。

 今回のウィーン・フィルとの演奏はより潤いがあって、第1楽章も木管やホルンがよく聴こえてえも言われない安らかさも感じられます。第2楽章はそれ以上の美しさです。後期ばりに肥大、否、分厚い響きでなく、この作品らしい響きだと思いました。ところでリッカルド・ムーティとか小澤征爾を「ブルックナー指揮者」だという認識はあまりないかもしれません。そもそもブルックナー専科的に注目されてきたわけじゃないので当然ですが、CD付属冊子の末尾にウィーン・フィルがブルックナーの第2交響曲を演奏した機会が時系列に並んで載っていて、意外にも小澤征爾が八回、ムーティが八回と抜きんでていました。ティーレマンはホルスト・シュタインとともに二回でした。
11 10月

ブルックナー交響曲第4番 ティーレマン、ウィーンPO/2020年

211011bルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878・80年稿 ハース版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2020年8月21,22日 ザルツブルク祝祭大劇場 ライヴ録音 Sony Classical)

 先日発売日直後に塔レコードの京都店で品切れになっていたティーレマンとウィーン・フィルの新譜です。第1稿ではなく普及して、何世代か前の指揮者が取り上げていた1878・1880年稿のハース版を使用しています。最近の新譜ではネルソンスがノヴァーク版を使っているの対してわざわざハース版の方を選んで使用したのか、ティーレマンはドレスデン、ミュンヘンでも同じ版を使っていました。

 ここまでウィーン・フィルとは第8、3番を録音、発売済ですが、今回の第4番が一番素晴らしいと思いました。コロナ禍の中にあってよくぞ演奏、収録してくれたものだと思います。どの楽章も素晴らしいと思いましたが、終楽章が特に他の追随を許し難い魅力です。冒頭からブルックナーらしい峻厳さと隅々まで潤いの行き届いた繊細さはなかなか同居し難いのではないかと思います。前者、そびえ立つような峰に威圧されるような感覚が勝つと後者のような味は後退しがちです。第3楽章も不思議にしつこさが無くて、自然と次の楽章に入って行けるような絶妙さだと思いました。

ティーレマン・VPO/2020年
①19分23②16分12③11分12④22分55 計69分41
ティーレマン・ドレスデン/2015年5月23日
①19分11②16分48③11分08④23分13 計70分20
ティーレマン・ミュンヘンPO/2008年
①20分23②17分16③11分46④23分44 計73分09
ネルソンス・LPG/2017年*同稿ノヴァーク版
①19分55②17分16③10分54④21分45計69分50
ヤノフスキ・スイス/2012年*同稿ノヴァーク版
①18分15②15分30③10分53④18分46 計63分24

 ティーレマンとウィーン・フィル、ソニー・クラシカルと言えばベートーヴェンの交響曲があり、映像ソフトと同じ音源だったのか、何曲か聴いたところ、音質が今一つだったのを残念に思っていました。たいした装置で聴いているのでもないくせに、音質がどうのと言うのもあれですが、どうもマイクが遠いというか、ぼやけたような音に感じられて、古典派の作品だからもっと隅々まで克明に聴こえても良さそうだと思っていました。今回のブルックナーはそういう不満は無くて、小さい音の箇所も十分に鑑賞できます。

 最近パーヴォ・ヤルヴィのブルックナー全集(第00番は除く)がセットでのみ発売されました。ここまで一曲ずつ分売されてきて、第8番を残したところで急にセットのみでの発売となりました(ここまで発売していなかった第0番付きで)。なんでも当分第8番だけの分売は予定が無いらしく、せこいことをやってくれると思いつつ、読みが甘かったと反省しています。しかも第8番は2012年の録音で、第1番から第9番を含めて2006年から2014年までに録音しています。第0番が2017年で全部新型コロナ以前に完了していたわけで、このやり方には憤りを禁じえないと言えよう。あるいは第8番あたりを録り直すつもりだったのがコロナ禍で断念したのか、とにかく残念です。ティーレマンとウィーン・フィルのブルックナーは誠実に販売して欲しいところです。
19 5月

ブルックナー交響曲第5番 ティーレマン、SKD/2013年映像付

210519aブルックナー 交響曲 第5番 変ロ長調 WAB105(1878年稿ハース版)

クリスティアン・ティーレマン  指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(2013年9月8-9日 ドレスデン,ゼンパーオーパー ライヴ収録 C Major)

210519 先月に吉本新喜劇で活躍したチャーリー浜の訃報を見ました。花紀京、井上竜夫、島木譲二とよく知った顔がどんどん居なくなりました。そういえば吉本新喜劇をやめてから大阪市会議員に当選して議長まで務めた船場太郎も既に亡くなっています。その大阪圏のコロナ感染者数は高止まりの上に岡山、広島へと拡大しています。あまり目立った報道はされませんがワクチン接種後に亡くなった方も出ています。アジア人の体質やら遺伝子の違いが影響するのかどうか、身の回りの雑談ではむしろ中国で開発されたワクチンの方が日本人の体質には合うのじゃないかとか色々取り沙汰しています。京都タワー地下にあった銭湯が6月末で閉鎖になるというニュースもあり、そこには平成10年秋に利用したのが最後ですが思い出の大浴場がついに廃止になります。

ティーレマン・SKD/2013年
①22分15②19分53③14分12④25分06 計83分26
ティーレマン・MPO/2004年
①22分43②20分07③14分42④25分21 計82分53
ズヴェーデン・オランダRSO/2007年
①21分22②19分42③13分03④24分47 計78分55
 スクロバチェフスキ・LPO/2015年
①21分27②18分09③13分16④25分22 計78分14
D.ラッセル・デイヴィス/2006年
①21分43②14分49③15分10④25分10 計76分52
ヤノフスキ・スイス/2009年
①19分42②18分45③11分35④23分29 計73分31
ヤング・ハンブルクPO/2015年
①19分56②16分59③13分02④23分23 計73分20
フリーデル・LSO/2014年
①18分35②17分54③13分31④23分18 計73分18
インバル・東京都SO/2009年
①20分31②14分24③15分01④22分42 計72分38
ボッシュ・アーヘンSO/2005年
①19分34②16分02③13分11④22分19 計71分06 
ボルトン・ザルツブルク/2004年
①19分18②16分11③12分16④22分43 計70分29
パーヴォ・ヤルヴィ/2009年
①19分23②14分57③13分01④22分25 計69分46
ザンダー・PO/2008年
①18分58②16分00③12分36④21分01 計67分35

 ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンのブルックナー交響曲シリーズ映像ソフトが完結しました。第1、2番も含んでいるのは有り難くて、こういう日が来るとはと感慨深いものがあります。今世紀に入ってからのブルックナー第5番の演奏時間を過去記事から集めてみると上記のようになり、ティーレマンはけっこうゆったりした演奏ということになります。第5番は原典・1878年稿ならハース版とノヴァーク版の差は無いので、稿・版・楽譜による演奏時間の差が出るとすれば、その演奏で省略をした部分があるか無いかくらいしか違いは無いはずです。ベンジャミン・ザンダーと今回のティーレマンでは16分程も違い、これはかなりの差です。

 今回は何度目かで最初から通して聴いていると、演奏時間の数字通りゆったりと流れるように進み、劇的な刺激や細工のような強調とかは感じられません。新しいウィーン・フィルとの第8番の演奏とはだいぶ違っています。第1楽章のコーダ付近はもっと溌剌として流動感のあるタイプの演奏も多い中、全く泰然として完結しています。第3楽章のスケルツォは通常のリズミカルなテンポで進み、終楽章も濃厚ではなくて簡潔に淡々と演奏してます。ティーレマンのブルックナー演奏は基本的にどちらなのか、この第5番なのかウィーン・フィルとの第8番なのか、よく分かりませんがティーレマンならではということからは後者、ウィーン・フィルとの今後の録音が注目です。

 演奏が終わって音が消えてからティーレマンが手を下すまでの時間が長く感じられ、その間は会場が静まりかえり、完全に手が下りきってはじめて拍手が始まります。これは収録だからと打ち合わせ済なのか、客席と一体となった集中力なのか、日本のオーケストラ公演だったら合戦の先陣争い、一番槍の抜け駆けのように声があがりがちなので全く対照的です。
30 4月

ブルックナー交響曲第3番第2稿 ティーレマン・VPO/2020年

210430ブルックナー 交響曲 第3番 ニ短調(1877年第2稿ノーヴァク版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2020年11月28,29日 ウィーン、ムジークフェラインザール ライヴ録音 Sony Classical)

 朝のラジオ番組で1945年、昭和20年の4月30日にアドルフ・ヒトラーが自決し、その十日後にドイツが無条件降伏したと言っていました(あと1999年の同日にカンボジアがアセアンに加盟したとも)。沖縄本島への米軍上陸が1945年4月1日に始まったので、遅まきながら日本もそこで戦争を止めていたらと、後の惨状を知るにつけそう思われて仕方ありません。それから大阪府の幹部(健康医療部の医療監)から保健所へ「高齢者の入院優先順位を下げざるを得ない」というメールが送信されたところ、府の方針と異なる、誤送信だと騒ぎになっているというニュースもありました。どの部分が「誤」送信なのか、本音が、感染具合によっていずれはそうするという策が、バレた漏れたということなのか、文章の作成間違いなのか。

ティーレマン・VPO/2020年
①20分24②16分20③07分32④16分57 計61分13

ティーレマン・SKD/2016年
①21分25②16分35③07分25④15分57 計61分22
ズヴェーデン・オランダRSO/2011年
①22分05②16分02③07分08④14分18 計59分33
ギーレン・南西独RSO/1999年
①18分29②15分43③06分55④14分08 計55分30
アーノンクール・ACO/1994年
①19分29②13分26③07分02④14分37 計54分34
シノーポリ・SKD/1990年
①21分08②16分08③07分15④14分40 計59分11

 昨年来オーケストラ、オペラ、舞台の公演が自由にでき難くなり、新譜もなかなか出て来ないかと思っていたら昨年11月にライヴ録音されたティーレマンとウィーン・フィルのブルックナーの第3番が発売となりました。ライヴ録音との表記があるものの演奏終了後の拍手等は入っていません。ティーレマンの過去のブルックナー録音の中でも特にのびのびとした感じで、オーケストラがよく鳴っている録音です。映像ソフトのシュターツカペレ・ドレスデンとの演奏よりも大らかで、より好感がもてました。同じSONY、ウィーン・フィルとのベートーヴェン(演奏会場も同じ)よりも音が良いのではと思います。

 同じ第2稿のノヴァーク版を使用した録音は1990年のシノーポリ以降もけっこうありました。ギーレンとアーノンクールが55分程度の合計演奏時間で特に短い他は59~61分程度の間に収まっていて、ティーレマンは61分台です。ギーレンとアーノンクールはどこかで省略をしているのかと思いましたが、各楽章で少しずつ短くなっているのでそうではないようです。前回のウィーン・フィルとの第8番と比べるとあっさりとしていると思います。

 初期稿でも1888/89年稿ノヴァーク版でもなく、ティーレマンより年長の世代が使っていた第2稿ノヴァーク版を使用するのは自身のこだわりなのか、解説文を訳せれば何か言及しているかもしれません。ウィーン・フィルとのベートーヴェンも使用楽譜は新しい
ベーレンライター版ではなかったと指摘されていました。
12 1月

マイスタージンガー ツェッペンフェルト、ティーレマン、SKD/2019年

210108ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

クリスティアーン・ティーレマン  指揮
シュターツカペレ・ドレスデン
ドレスデン州立歌劇場合唱団
ザルツブルク・バッハ合唱団

ハンス・ザックス:ゲオルク・ツェッペンフェルト(Bs)
ボーグナー:ヴィターリー・コヴァリョフ(Bs)
フォーゲルゲザング:イウリエ・チョバヌ(T)
ナハティガル:ギュンター・ハウマー(Bs)
ベックメッサー:アドリアン・エレート(Bs)
コートナー:レヴァンテ・パール(Bs)
ツォルン:マルクス・ミーゼンベルガー(T)
アイスリンガー:パトリック・フォーゲル(T)
モーザー:アダム・フランスン(T)
オルテル:ルパート・グレシンガー(Bs)
シュヴァルツ:クリスティアン・ヒューブナー(Bs)
フォルツ:ロマン・アスタホフ(Bs)
ヴァルター:クラウス・フロリアン・フォークト(T)
ダーヴィット:ゼバスチャン・コールヘップ(T)
エーファ:ジャクリーン・ワーグナー(S)
マグダレーネ:クリスタ・メイヤー(Ms)

(2019年4月13,22日 ザルツブルク祝祭大劇場 ライヴ録音 Profil)

 毎年一月三日にテレビ中継されるNHKニューイヤーオペラ、今年はフィナーレ直前にニュルンベルクのマイスタージンガーから Verachtet mir die Meister nicht - Ehrt eure deutschen Meister(マイスター達をあなどらないで - ドイツのマイスターを讃えよ
が入っていました。ザックスの独唱から始まってコーラスが加わり、盛り上がりながら全曲を閉じるところで、単に作品の中だけでなく民族をマンセー、否、民族意識を高揚させる魔力のようなものも帯びています。困難な状況にある我々にとってタイムリーな選曲かもしれませんが、やはり今回のニューイヤーオペラはどこかしらいつもと違う雰囲気でした。MCの女性は微妙にコメントに困っているような風で(台本がそうなっているのだとは思うが)、下手なことを言っては大変という硬さも感じられました。そう思っている内に緊急事態宣言、寒波ということに。十日恵比須(個人的には関係ない)が過ぎて関西も緊急事態宣言が出るようで目も当てられないところです。

 オペラの全曲録音がめっきり少なくなり、あったとしても公演とリハーサルの際に録音してしまい、時間をかけたセッション録音はもうのぞめなくなっています。このCDもそういう制作の部類のようですが、やっぱりティーレマン、ワーグナーとなると期待します。昨年末から断片的に聴いていると、やっぱり音質というのか収録、制作環境の面でちょっと残念さが残ります。過去のティーレマンのワーグナー全曲ではウィーンでのDG盤が特に同様の感じでしたが、それよりは聴き易く、不満は少ない気がするものの、オーケストラの音が弱い、歌手の声が所々引っ込んでいる等、セッション録音と比べると気になる部分がありました。

 
そうしたことは置いておき、オーケストラの方は従来のこの作品の録音と比べて個性的だと思われ、比較的にあっさりしているのに声楽陣の陰に隠れず、出っ張り過ぎず対向的に目立っています。同じくSKDを指揮したカラヤンの全曲・EMI盤を思い起こすと、オーケストラの渦に巻き込まれようで、対話の部分のリズムなんかも完全にオーケストラに支配されて引っ張られるようだったのとは対照的です。カラヤンの方はそれはそれで凄く魅力的だったとしても、このティーレマンのライヴ盤は新鮮に感じられます。フィナーレの Verachtet mir die Meister nicht ” の部分も、始まりのところを強調する風でもなく無造作なほどに開始していながら壮麗で、盛り上がっていきます。最初から通しては聴けていないけれども、劇場で視聴できたらもっと感銘深いだろうと、付属冊子の舞台写真をみながらそう思いました。

 主要キャストではザックスのツェッペンフェルト、ダーヴィットのコールヘップが特に目立っていましたが前者はもっと迫力のある歌唱もあったのではないかと思いました。これもマイクの位置やら本数、音響環境の影響かと思って聴いていました。クラウス・フロリアン・フォークトももう少し前の映像ソフト、パルジファルやローエングリンでの歌唱、声を念頭に置いていると大分地味に感じられました。他のキャストとの対比と言う面では面白いと思いましたが、音声だけ聴いていると微妙でした。
13 11月

ブルックナー交響曲第8番 ティーレマン、VPO/2019年

201113ブルックナー 交響曲 第8番 ハ短調(1890年・第2稿 ハース版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

(2019年10月5,13日 ウィーン,ムジークフェラインザール ライヴ録音 ソニーミュージック)

 11月も一週間以上が過ぎて日が沈むのも早くなり、気温といい個人的には嬉しい季節になりました(日が暮れると何となく元気が出て来る)。先日夜に信号待ちをしていると運転席の横の窓越し、西側に反対車線の赤信号が見え、その信号の高さ、角度から一瞬月のように見えて、血のような赤い月(鬼舞辻無惨とかディオに似合う)かと思い気色悪くなりました。しかし当日は東の空にやっと月が出て来る時刻だったので錯覚だとすぐ気が付きました。今年は第九の公演は軒並み中止のようで、あとは例年12月にFMで放送するバイロイト音楽祭の公演はどうなるのだろうと気がかりです。ヤノフスキが振った指輪をもう一度放送してくれないかと思いながら可能性は低そうで、そもそもバイロイト自体放送しない可能性もあります。

 ヨーロッパで歌劇場やオーケストラの活動が休止する中、ネルソンスのブルックナーは中断しているのだろうなと思っていたら、ティーレマンとウィーン・フィルの全曲録音(映像ソフトも同時進行らしい)の第一弾、交響曲第8番の新譜が先月出ていました。ウィーン・フィル、シーズン第2回定期(予約演奏会とも言うらしい)でのライヴ・レコーディングです。これまでウィーン・フィルが一人の指揮者によってブルックナーの交響曲を全曲録音したことはなく、このティーレマンの企画がウィーン・フィル史上初だということです。昔のように時間をかけたセッション録音じゃないけれど大いに気になるブルックナーの企画です。

~ ハース版による録音
ティーレマン・VPO/2019年
①15分41②15分35③26分25④23分40 計81分21
ティーレマン・ドレスデン/2009年・CD
①15分45②15分52③27分09④23分21 計82分07
ハイティンク・VPO/1995年
①16分48②15分04③27分26④23分47 計83分05
カラヤン・VPO・/1988年
①16分56②16分25③25分13④23分59 計82分33
朝比奈・大PO/2001年7月(サントリーホール)
①14分42②15分27③26分14④24分06 計80分29
ブーレーズ・VPO/1996年
①15分08②13分39③24分52④22分19 計75分58

 とりあえず聴いてみると冒頭は驚くほど慎重に、羽毛のように軽く立ち上がり、過去に聴いたティーレマンのブルックナーとはちょっと違う気がしました。マゼールとベルリン・フィルのブルックナー第7、8番あたりが似ているかと思いましたが、後半に行くにつれて少しフルトヴェングラーがちらつくような力の入り具合です。第2楽章は速目というか、よく聴かれるようなテンポながら優雅で、暴れないスケルツォ楽章です。全曲を通じて金管が吠えない、うるさくない録音の上に、どういうマイクの設置なのか弦もつや消しの塗装を少ししたような独特の音にきこえます。カラヤンのブルックナーを想像していると弦の音色はだいぶ違います。こういう特徴が堪能できるのは第3楽章で、さすがにウィーン・フィルという美しい演奏です。終楽章は速目のテンポで、20世紀末にヴァントや朝比奈のブルックナーの人気が出た頃の泰然とした、テンポを変化させないタイプとは違う演奏かなと思いました。しかし、コーダ部分は高揚を押さえた風でそこも上品になっています。

 過去にティーレマンのブルックナーを何種か聴いていながらティーレマン独自のブルックナーの演奏スタイルというのがあまり分からず、とりあえずミュンヘン・フィルの就任時の第5番が何となく気に入っているくらいでした。今回この第8番を聴いて独自のスタイルのようなものが前面に出てきたようで、最近のブルックナー演奏とは一線を画するような考えをもっているのではと思いました。ブルックナーの全曲録音もかなり増えて、ネタ切れかと思っているところへ、新機軸なのか復古的なのか分かりませんがとにかく刺激的な内容の演奏が出てきました。そろそろ「ブルックナーらしさ」といものも変わる潮目なのかとか色々思わせる第8番です。

 ただ、個人的趣向としてはもう少し歪な、或いは野暮ったいようなタイプか、それとは別に鋭い響きのブルックナーに惹かれているので、この第8番は河の対岸から興味深く眺めている(河を渡って近くに行って聴こうという熱意はまだわかない)といったところです。ブルックナーの初期の交響曲がウィーンでも受け入れられない時、マーラーやフーゴー・ウォルフは作品の価値を認めていた(散々だった第3の演奏会で退席せず最後まで残った)ということですが、作風が似ているとは思えない二人が志向するブルックナー演奏はどういうものかなかなか想像できません(あるいはティーレマン、ウィーン・フィルの第8番のような内容なのか?)。
30 11月

ブルックナー交響曲第2番 ティーレマン、SKD/2019年

191127ブルックナー 交響曲 第2番 ハ短調 WAB102 ( 1877年稿 W.キャラガン校訂版 )

クリスティアン・ティーレマン 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(2019年2月6日 ハンブルク,エルプフィルハーモニー ライヴ収録 C Major)

191127a とうとう11月が終わり、12月1日の日曜日から待降節(アドヴェント)に入ります。昨夜ラジオのニュースの中で京都地裁の判決、ヘイトスピーチ事件についての裁判の判決を聞きました。求刑の懲役刑にはならず罰金でした。ただ犯行に「公益目的も認められる
」としたことは青天の霹靂(世相を思えばそうでもないか)です。このノリでいけばヤクザの発砲事件で巻き込まれて小学生が撃たれたりした場合に、「報復しなければ筋が通らない、さらには日本伝統の忠義の精神が廃れるからこれを守るために決行した、小学生を傷付ける意図は無かった」という方便でも公益性が認められかねないと思いました。ヤクザ社会では懲役へ行ってハクを付けるとかで、凶行に従事すればとりたててもらえるという面があるのかないのか、映画の中ではそんな描かれ方がありました。ヘイトスピーチとかZT会の事件も、それをやった功績でなんとか会議がとりたててくれるとか、まさかそこまでのことは無いでしょうが。

 秋が深まっていっそうブルックナーな気候になってきました。ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンのブルックナー交響曲シリーズもこの第2番で完結しました。しかも映像ソフトで。今回の会場はハンブルクのエルプフィルハーモニーで、ミュンヘン(第1、3番),バーデン・バーデン(第4、9),ドレスデン(第5、6、7、8番)に続いて四つ目の会場です。全体の印象は第2番を初期作品という枠組みに入れるよりも後期作品と同じように扱い、ゆったりと壮大に(そこそこ壮大か)響かせるというスタイルで、先行する同じ稿・版による録音とは少し違っています。ただ、第3、4番の広告にあった「弱音にこだわる」というところは同じなので、勢いにまかせてという風ではありません。その割りにこの第2番では演奏が終わった瞬間に拍手が巻き起こっていて、客席の反応はシリーズ中ではちょっと異例でした。交響曲第2番のLP時代にあった録音はヨッフムの新旧全集、ヴァント唯一の第2番・ケルンRSO全集、ホルスト・シュタインとウィーンPO、ジュリーニとウィーンSO、カラヤンとベルリンPO全集、バレンボイムとシカゴSOの全集くらいがメジャーなところでした。これらの中でヨッフムはより運動・流動感が感じられて、そのためかこの曲が第3番以降と一線を画するような印象を受けましたが、ティーレマンでは違いました。

ティーレマン・SKD/2019年
①18分34②18分08③06分35④15分01 計58分18
パーヴォ・ヤルヴィ hrso/2011年
①16分41②17分05③06分28④15分44 計55分59
ヴェンツァーゴ/2011年
①16分13②17分42③07分02④15分30 計56分27
ヤノフスキ・スイスロマンド管・2012年
①17分47②14分21③08分46④13分58 計54分52

  使用の稿・版は校訂が進行中の新ブルックナー全集、1877年稿・Wキャラガン校訂稿と表記され、abrucknerコムのディスコグラフィでもそのように分類されています。上記のトラックタイム・四種類はいずれも同じ稿・版で演奏しています(校訂作業の都合とかで一部で異なるところがあるかも)。このティーレマンの終楽章は演奏終了後の拍手もまだ同じトラックに含まれていたのでそれを除いています。

1877年稿(第2稿)・Wキャラガン校訂版
1楽章:Moderato
2楽章:Andante;Feierlich, etwas bewegt
3楽章:Scherzo;Mässig Schnell-Trio.Gleiches Tempo
4楽章:Finale;Mehr schnel

 abrucknerコムのディスコグラフィで1877年稿のノヴァーク版も「1872/77 Mixed Versions.」と表記してあり、そのノヴァーク版を校訂する時に1877年稿のハース版を初期稿との折衷的な稿として批判的に見ていたので、このW.キャラガン校訂版は正真正銘の「第2稿」という位置付けのようでした。楽章の並び方、表記はノヴァーク版とほぼ同じですが、所々でこんな風に聴こえたかなという断片がありました(詳しくは未確認)。
11 11月

ブルックナー交響曲第3番 ティーレマン、SKD/2016年

191111bブルックナー 交響曲 第3番ニ短調 WAB103(1877年稿ノヴァーク版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(2016年9月2,3日 ミュンヘン,フィルハーモニー ライヴ収録 C Major)

191111a 先日聖パウロ修道会の運営する書店、サンパウロの京都店に立ち寄ったところ香港から来たというお客が記念写真を撮っていました。ホンコンにもカトリック教会があるのか、それとも観光的なものだったのかとにかく返還前の自由はそこそこ続いているのだと思って見ていました。京都店は元々河原町通に面した1階にあったのが隣接建物(というか借家していた)の取壊しのため、聖堂地下の一室に移転して分かり難い場所になりました。そこへわざわざ来るからにはその香港からの方々もカトリック教会の信者なんだろうとも思いました。それにしても聖堂地下の廊下に面した南側にも部屋(サンパウロが移転した場所の他にも複数移転してきていた)があったのは全く知らなかったので、以外に地下も広かったんだと思いました。

  ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンのブルックナー・映像ソフトシリーズも残すところ第2番だけになりました(今月下旬に出るらしい)。収録会場は本拠地のドレスデンだけでなくミュンヘンやバーデン・バーデンも含まれています。過去記事では下記の四曲、



を扱いましたが今回の第3番が一番感銘深いと思いました。単に隅々まで行き届いて念入りにというだけでなく、血の通ったというのか豊かで美しい内容でした。しかも演奏終了後に雄叫びを呼ぶような荒々しいタイプでもにところが一層素晴らしいと思いました。

ティーレマン・SKD/2016年
①21分25②16分35③7分25④15分57計61分22
ズヴェーデン・オランダRSO/2011年
①22分05②16分02③7分08④14分18 計59分33
ギーレン・南西独RSO/1999年
①18分29②15分43③6分55④14分08 計55分30

 ソフトの紹介に「弱音へのこだわり」が生んだ、と称しているのが率直に納得させられました。前回の第4番も全曲の演奏が終わったあとにしばらく沈黙が続き、もうそろそろ良いんじゃないかと思うくらいになってやっと拍手がわき起こっていました。収録だからそうしてくれという事前通知があったのか、編集でそうやっているのか割り引いて考えてもなかなかのもので、演奏を聴いていても客席がそういう反応になっても不思議ではないと思いました。また、終楽章の盛り上がりも第4番井所に盛大だったので、ティーレマンがあるいはこの曲を特に愛好しているのかとも思いました。

 選択された稿・版は第2稿のノヴァーク版と明記され、このオケがシノーポリと録音した際と同じでした。今ではバイロイトの主とも言えるティーレマンのことだからワーグナー作品の引用がある第1稿を敢えて選んでいるかと思ったらそうではなく、より取り上げられる頻度が高い「1888/1889年第3稿ノヴァーク版」でもありませんでした。
27 10月

ブルックナー交響曲第4番 ティーレマン、SKD/2015年

191027ブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調 WAB104(1878/1880年稿ハース版)

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(2015年5月23日 バーデン=バーデン祝祭歌劇場 ライヴ収録 C Major)

 先月末に自家用車を修理に出していたのでしばらく代車を使っていました。レヴォークのターボ付でしたが一般道ばかり走行したので全然関係ありませんでしたが、フォレスターよりグレードが上なだけあって全く静粛で安定した乗り心地でした。ただ、シートの座面が高くないので乗降時にしゃがみ込むような姿勢になり、それが普通なのに車高とシートが高いものに慣れていたので大いに違和感がありました。それからナビのSDカードにためたいつもの音楽が聴けないので調子が狂いました。やっと慣れた車が戻ったと思った矢先、スーパーの平面駐車場にとめている時、発車する隣の車が接触してまた同じ箇所を損傷してしまいました。こういうことがあるのだと、祟りのようなものを感じる反面、発車する時に当てるとはどんな初心者なんだとかなり驚きました。自分は車外に居り、エンジンもかかってなかったので過失云々の問題は無いのがせめてもの救いでした。

 ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンの公演を収録したブルックナーの交響曲シリーズが完結(第1~9番)しようとしています。映像付の全集が出るとは二昔前は想像できませんでした。第4番はミュンヘンPOとの映像ソフトが既にあったので念が入ったことです。両方とも演奏終了後に静まり返り、指揮者の手が下り切って静止してから拍手が始まるという反応が同じになっています。また会場も同じバーデン=バーデンで約7年の間隔をおいての収録です。なお、当日は聖霊降臨の大祝日だったようです。

ティーレマン・ドレスデン/2015年5月23日
①19分11②16分48③11分08④23分13 計70分20
ティーレマン・ミュンヘンPO/2008年
①20分23②17分16③11分46④23分44 計73分09

 新旧の演奏時間を比べると2008年のミュンヘン・フィルの方が少し長くなっていますが、今回何度か視聴していると何となく逆(ミュンヘン・フィルの方は記憶に頼って比較)な印象で、特に第2楽章が長く感じられました。総じてゆったりと穏やかな演奏だと思いました。その代わりというか、終楽章のコーダ部分は自然な流れながら大いに高揚して盛り上っていました。指揮している動作からは特段それを狙って強調するようには見えず、このあたりは演奏終了後の客席の反応とつながりそうでした。

 2000年以降もブルックナーの交響曲を全曲録音する指揮者、オーケストラは増えています。その中で新しい(と言う程でもないか)演奏の傾向は、速目のテンポ、ノンヴィブラート、小編成(曲によっては)、くらいが挙げられます。あとはメジャーなオーケストラよりローカルなオケも目立っています。ティーレマンの場合はそれらにあてはまりませんが、演奏からは不思議に重厚長大という印象をあまり受けません。
25 9月

オルフ「カルミナ・ブラーナ」 ティーレマン、ベルリンDO/1998年

190925オルフ 「カルミナ・ブラーナ」

クリスティアン・ティーレマン 指揮
ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団(合唱指揮:ヘルムート・ゾンネ)
ベルリン少年合唱団(合唱指揮カール=ルートヴィヒ・ヘヒト)

クリスティアーネ・エルツェ(S)
デイヴィッド・キューブラー(T)
サイモン・キーンリーサイド(Br) 

(1998年10月 ベルリン,イエス・キリスト教会 録音 DG)

 すごく有名な作品であっても自分の好み(ジャンルとか作曲家の好き嫌い)からあまり聴いたことがなかったという曲は多かれ少なかれあることでしょう。オルフの「カルミナ・ブラーナ」は自分にとってそういう曲の一つでしたが、そもそも何故自分がこれをあまり好きではないのか、このCDを聴きながら理由を考えるとどうも作品に陰りがあまり感じられず、日なたの部分が目立つという感覚からだという理由に気が付きました。カルミナ・ブラーナは劇的三部作「勝利」とか「勝利三部作」という名称の一曲だそうで、その「勝利三部作」というのもどうも気に入らない名前です。じゃあ敗残三部作なら良いのかと言われると困りますが、何となく勝共連合だとか大政翼賛会のようなものを連想してしまいます。

 それはともかくとして、先月にアイヒホルンのオフル作品集の中のカルミナを扱ったところ、コメントを頂いてプライの名演や「1984年日独交歓記念演奏会で、NHKとZDFが行った公開録音盤」のことを知りました。それでこの曲の新し目のCDを探したところティーレマンの1998年(1996年のベートーヴェンがデビュー盤らしい)録音が見つかりました。約2年前にはLPでも発売されていたくらいなので一定の評判はあったようですが、新譜時には全く気が付いていませんでした(1997~2005年頃は同曲異演からかなり遠ざかっていた)。

 2017年発行の「名曲名盤500/レコ芸編」ではティーレマン盤は第3位で4Pを獲得して
小澤、ベルリン・フィルと同点。ちなみに第2位は7P獲得したプレヴィンとウィーン・フィルほか、第1位は20P獲得でヨッフムとベルリン・ドイツオペラらの1967年DG盤でした。1960年代から80年代には「カルミナ・ブラーナ」のレコードはかなり頻繁に出ていて、独墺系だけでなく色々な演奏者が録音していました。ティーレマン以降の新録音はラニクルズ、ラトル、ハーディングらくらいなので演奏頻度、人気が低迷しているようです。

 
今回これを正真正銘、初めて聴いたところ少しだけ作品に対する印象が変わり、変化に富んだ(質的に)内容の作品だと思いました。その一方でショスタコーヴィチの交響曲第2、3番に少しだけ似ているような鋭いものを思わせました。だいぶ前に唯一購入して聴いていたヨッフムのDG盤、先月のアイヒホルンに続いてこれが三種目になりますが、どれが一番好印象か今一つ定まりません。
11 9月

第九/2001年バイロイト音楽祭 ティーレマン~FM放送

190911aベートーヴェン 交響曲 第9番ニ短調 Op.125

クリスティアン・ティーレマン 指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団(合唱指揮エバハルト・フリードリヒ)

エミリー・マギー(S)
ミッチェル・ブリード(A)
ロバート・ディーン-スミス(T)
ローベルト・ホル(Bs)

(2001年8月10日 バイロイト,祝祭歌劇場 ライヴ録音/FM放送)

190911b 台風の影響なのか連日35℃を超える最高気温を記録しています。去った直後も正午頃に37℃とか八月の盆前と変わらないのには驚き、うんざりします(それでも痩せはしない)。バイロイト音楽祭が終わって夏のルツェルン音楽祭のシーズンに入っていますが、両音楽祭共に第九のライヴ録音で有名なものがありました。1951年と54年はフルトヴェングラー、1953年はヒンデミット、1963年にはベームが指揮しましたが、それからはかなり空いて戦後再開から五十年の2001年にティーレマンが久しぶりに第九を指揮しました。今回はその演奏がNHK・FM(年末の一挙放送)で放送された際にDATテープに録音したものを久々に聴きました。この音源はかつてCDレコーダー経由でコピーして聴いていて過去記事で扱ったような記憶が薄っすらとありますが、CDではないのでOCNブログ当時は「盤外篇」という区分はしてなかったので単独では記事化していないかもしれません(確認する根気が無い)。

 演奏が始まる前には解説も録音しているのでティーレマンのリハーサルに言及しているのが興味深いものがあります。ゲネプロまでの練習は部分的におさらいをする程度だったのでオケのメンバーが、「いかにもお仕事でやってるって感じね」と不平をこぼすこともあったようですがゲネプロで空気が一変したそうです。それまで演奏したテンポと変えたりしてメンバーの中には反発する者もいる風で、ティーレマンとオケが緊迫してせめぎ合うような演奏になり、それをティーレマンが意図していたようでした。商品化のための「疵の無い演奏」を志向しないという姿勢が往年の巨匠を彷彿とさせるというところかもしれません。

 当時のFMを録音した環境は
光テレビ経由じゃなくて、TV用のアンテナからケーブルでFMチューナーにつないでいましたが、普及クラスにしては高感度と定評があったパイオニアのチューナーF777のおかげか雑音がほとんど目立たない音でした。ティンパニの音が特にクリアで管楽器も鮮明な音質なのに弦楽器の高音がやや弱く感じられます。このチューナーはある年にタイマー録音をセットしたのに全然音が入ってなかったのでそれ以来使わずに置いています。

ティーレマン・バイロイト/2001年8月10日
①16分40②13分00③17分35④25分13計73分28
クレンペラー・PO/1957年セッション録音
①17分00②15分37③14分57④24分23 計71分57
I.フィッシャー・RCO/2014年
①16分07②12分27③15分42④26分20 計70分36
ナガノ・モントリオールSO/2011年
①14分52②12分58③13分20④21分50 計63分00
ダウスゴー・SCOÖ/2008年頃
①13分55②13分44③12分37④22分09 計62分25
P.ヤルヴィ・独室内POブレーメン/2008年
①13分55②13分28③13分15④23分11 計63分49

 演奏の方は面白く、各楽章の結びつきが強く、これぞ交響曲という
感銘深いものでした。当然というか言うまでもなくピリオド奏法の影響は限りなく薄く、近年の流行り?のスタイルとは一線を画しています。第2楽章が遅く第3楽章が速目というクレンペラーの演奏に通じるバランスのような気がしたのに演奏時間自体はそうではありませんでした。却って印象としてはフルトヴェングラーのバイロイトの第九に似ているとも思いました。演奏が終わった後の反応良好で、拍手と歓声がわき起こってからうねる様にどんどん増して行きました。
26 4月

ブルックナー交響曲第1番 ティーレマン、SKD/2017年

180426aブルックナー 交響曲 第1番 ハ短調 WAB101(1877年リンツ稿・Thomas Roeder 版)*ソフトには版の明記はなく1868年リンツ稿とのみ表記

クリスティアン・ティーレマン 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

(2017年9月6日 ミュンヘン,ガスタイク・フィルハーモニー 収録 C Major)

 あっという間に4月も終わりが近づき連休がやってきます。先週くらいだったか夜に和食の店に入ったら「そら豆」が籠に入って置いてありました。どうやって食べるのかと聞くとさやごと焼いて(あぶって)食べるのでさっそく注文しました。むかし自分の家でそら豆も栽培していた(自家用に)ので五月頃には大量に家にあり、たいていはゆでて食べていたのを思い出しました。しかしその当時はゆで方が悪かったか、残ったものばかりを食べたせいか味は良くなくて、渋みというのかえぐさのような雑味が目立ってそら豆自体が嫌いになっていました。それが焼いて食べると薄皮もむきやすくて、さわやかな味だったのでおかわりの注文しました。あんまり美味かったのであやうくそら豆だけで延々と酒をのみそうになるのを我慢しました。豆の品質の影響もあるかもしれないと思いました。

 ブルックナーの交響曲第1番の映像ソフトがついに発売されました。ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンによるブルックナー・チクルスの映像付が交響曲第3番以降が出そろっていたのでこれで打ち止めかと思ったらなんと第1番も出て来たので、これは少なくとも第2番も出るはずで映像付の全集完結の予感です。今回の第1番はリンツ稿の中でも2016年出版の新しい版を使っているようです(a. bruckner. com のディスコグラフィによる)。バレンボイムも第3番以降しか映像収録していないので、使用楽譜からして気合が入っています。

180426b 実際に聴いてみると第3、4楽章が速目のテンポになり、第2楽章のアダージョとの対比が鮮明になっています。それに終楽章のコーダ部分ではかなり盛り上がり、後期作品並みの威容で迫ります。特に第1~2番までの初期交響曲ということを意識せずに、ブルックナー作品共通のスタイルで演奏しているようです。第1番のブルーレイ・DVDの発売予告が出て時にはウィーン稿で演奏するのかと想像していましたが、そうではなくて版の方も最新のものを使い、その分演奏自体はティーレマンらしい内容だと思いました(ブルックナー演奏の際だけ特にスタイルが変わる風でもなく)。

 ただ、後半の二つの楽章のところで何となく思ったのは、インテンポで泰然としたいわゆるブルックナーらしさが前面に出るよりも、古典派かシューベルトの交響曲の演奏のように変化を付けているようでした。だからコーダにかけて高揚していくのが感じられましたが、そんなに強引に高揚を演出しているような不自然さはなく、好印象でした。ワーグナー作品を演奏する時程の自在さ?でなく、控え目にしているのかもしれません。と言っても第1番は個人的に聴いた回数が多くはないので、第2番が出た時にブルックナーらしさ云々がより実感できると期待しています。
21 4月

ワーグナー「ワルキューレ」 ティーレマン、ドレスデン2017年

180421ワーグナー 楽劇・ニーベルングの指環「ワルキューレ」

クリスティアーン・ティーレマン 指揮
シュターツカペレ・ドレスデン

ジークムント:ペーター・ザイフェルト(T)
フンディング:ゲオルク・ツェッペンフェルト(Bs)
ヴォータン:ヴィタリー・コワリョフ(Br)
ジークリンデ:アニヤ・ハルテロス(Ms)
フリッカ:クリスタ・マイア(Ms)
ブリュンヒルデ:アニヤ・カンペ(S)
ゲルヒルデ:ヨハンナ・ヴィンケル(S)
オルトリンデ:ブリット・トーネ・ミュラーツ(S)
ワルトラウテ:リスティーナ・ボック(Ms)
シュヴェルトライテ:カタリーナ・マギエラ(A)
ヘルムヴィーゲ:アレクサンドラ・ペーターザマー(Ms)
ジークルーネ:ステパンカ・プカルコヴァ(Ms)
クリムゲルデ:カトリン・ヴントザム(Ms)
ロスワイセ:ジモーネ・シュレーダー(A)

演出:ヴェラ・ネミロヴァ
舞台:ギュンター・シュナイダー=ジームセン
舞台再構築、衣装:ジェンス・キリアン
照明:アラフ・フリーゼ

(2017年4月5-17日 ザルツブルク祝祭大劇場 ライヴ収録 C Major)

180421b 
これは昨年のザルツブルク復活祭で上演されたワルキューレを収録したもので、夏の音楽祭ではないこともありティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンが中心になっています。復活祭の方の音楽祭は1967年にカラヤンが創設したもので、契約が打ち切られるまではベルリンPOが中心でした。この年は50周年の節目にあたりカラヤン自身が50年前に演出したワルキューレを再現する上演ということで注目されました。舞台上の環状の回廊は見覚えがあると思いましたが解説を見るまではカラヤンの演出だとは分かりませんでした。カラヤンは1951年と1952年にバイロイト音楽祭に出演した後は、新バイロイト様式の演出が気に入らないとか色々あって二度と出演しませんでした。そういうカラヤンがバイロイトに対抗する意味もこめて創設した音楽祭の初回なので演出も手掛けたのか、今回再現された舞台は強烈な読み替えはなくて、見やすいというのか、音楽に集中できるものでした。それに衣装がなかなか効果的だと思いました。

180421a 素晴らしいと思ったのは第二幕で、特にフリッカとヴォータンが争う第1場、その結果に鬱屈するヴォータンとそれに相対するブリュンヒルの第2場が歌唱共々強烈に印象付けられました。フリッカが登場する際は単独で、山羊が引く車とやらから降りた後として歩いて来る演出の方に慣れています。ここでは山羊の角が付いた仮面を被った半裸の男二人が大きなソファのような椅子を持ってフリッカと共に出てきます。ヴォータンとのやりとりの間も舞台に居て、ヴォータンらが立ち位置を変える度にそのソファを近くまで持ち運ぶのが目立ちました。ジークムントを殺すという結末に落ち着いてフリッカが退場する際はそのソファを残して山羊仮面と退場しますが、第2場の最後にヴォータンがブリュンヒルデに命じて退場した後にフリッカと山羊仮面が再度やって来てソファを回収して帰ります。その時にフリッカは勝ち誇ったような満足そうな笑いを浮かべているので、ヴォータンがブリュンヒルデに命じている間もそこをフリッカが支配していることをそのソファ(椅子)が象徴しているようで効果的でした。それに第二幕の最後、フンディングとジークムントの亡骸が横たわるところにフリッカがやって来て満足そうな表情を見せ、物語上のフリッカの存在が強調されています。(*当初ジークムントの名を「ジークフリート」と書いていたのは当然間違い、シレッと書き変えました。)

 これだけ活躍するフリッカなのに付属冊子の大き目の写真はジークリンデとブリュンヒルデだけでした。カンペのブリュンヒルデとハルテロスのジークリンデはキャストの中でも目立っていて、特に前者は次夜作品が楽しみな余裕の歌唱でした。クリスタ・マイアのフリッカは二人に負けない歌唱、存在感で、ヴォータン相手に全く引かずあくまで極道、否、神々の秩序の筋を通させる姿に圧倒させられます。ヴォータンのコワリョフも高貴さと悪辣さを併せ持つヴォータンらしさが充分出ていました。それに比べるとジークムントのザイフェルトはやや弱くて、特に第一幕は声も今一つな印象ですが、第二幕の死の予告辺りは素晴らしいと思いました(それでもよっと衰えたか?)。第三幕のヴォータンとブリュンヒルデのやりとり、別れと魔の炎の音楽も素晴らしく、このところソフト化された指環の映像の中でも抜きん出ていると思いました。

 最初ティーレマンのワルキューレの発売予告が出た時はドレスデンでの公演かと思いましたがザルツブルク音楽祭の公演だったので、続いて指環四部作が映像ソフトとして出るかどうか分からず残念でした。とりあえず2018年のザルツブルク復活祭音楽祭でティーレマンは指環を指揮していないようなので見通しは暗いようです。ティーレマンはバイロイト音楽祭ではピット内での団員の信任、人気も高くて、拍手代わりに譜面台を軽くたたくのが長く続くと年末のFM放送の解説で言及されていました。それならこの音楽祭でなくてもベルリン・フィルとワーグナー作品というわけにはいかないものかと、今回視聴していて思いました。
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昭和40年代生まれ、オットー=クレンペラーの大フアンです。クレンペラーが録音を残したジャンルに加え、教会音楽、歌曲、オペラが好きなレパートリーです。

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