エルンスト=ヘフリガー:テノール
(1965年9月 ベルリン,UFAスタジオ 録音 DG)
今年の京都薪能は演目に翁に加えて、絵馬、三輪と神道絡みのものが並び、特に伊勢を舞台として天照大神が登場する「絵馬」が加わったのは伊勢志摩サミットにちなんだものかと思いつつ、テロも発生せずに済んでとにかく良かったと振り返っていました。ついでに二日目は「養老」も演目に入っているので今年は妙に保守的な内容です。今年は当日が雨になればロームシアターで上演されるので、むしろ雨天の方がゆっくり観られるかなと思いつつまだ切符はとっていません。
テノールのエルンスト・ヘフリガーによるシューベルトの三大歌曲集と言えば、スイスのクラーヴェスに録音したフォルテ・ピアノのデーラーと共演した録音が有名でした。 しかしそれらはヘフリガーが60歳を超えた(白鳥の歌は65歳)頃でした。それ以前に彼が40代にドイツ・グラモフォンへ録音したものもあり、「ヘフリガーの芸術」という箱物にまとめて入っています。冬の旅、美しい水車小屋の娘と同様に単に声が若々しいというだけでなく、色々と魅力がつまっていそうです。
「白鳥の歌」は一人の詩人による連作の詩に作曲したのではなく、シューベルト自身が編纂した形態でもないので近年は録音でも曲順を変えたり、違ったスタイルも出ています。しかしこのヘフリガーの録音は、他の二つの連作歌曲集と同じように、ストーリー性とまではいかなくても有機的な結び付がある歌曲集として扱っているような感じられます。特にザイドルの詩による第14曲目“ Die Taubenpost(鳩の便り)” は、あまり軽快速めのテンポで歌わずに、ハイネの詩による第13曲“ Der Doppelgänger(影法師)” の余韻のようなものをとどめて決定的に違ったものという印象にならないようにしています。それに第1曲目も、通常の速さで演奏しているようでもどこか引っかかって、転がらないようなテンポ感になり、それらのおかげで14曲全部に統一感が出ているような気がします。
その「ひっかかるような」というのは主にピアノ方に感じられるので、これは必ずしもヘフリガー当人の思い通りになってのことじゃないかもしれません。ヘフリガーは1959年に「美しき水車小屋の娘」で共演したフランスの女流ピアニスト、ジャクリーヌ・ボノーともっと共演したがっていたので、この作品も実は彼女のピアノで録音したかったのかもしれません(そうはっきりは言っていない)。