リスト ピアノ・ソナタ ロ短調 S178
ヴラディーミル・ホロヴィッツ:ピアノ
(1977年 録音 RCA)
1903年生まれのホロヴィッツが初めて来日したのが1983年、80歳になる年で、その後亡くなる3年前の1986年にも来日公演をしています。このCDに収録されたリストのピアノソナタは、初来日の6年前の録音です。故、吉田秀和氏が初来日したホロヴィッツを骨董品で、ヒビが入っていると評した逸話も有名です。正確な言葉、前後の文脈や真意、妥当性等一筋縄でいかないとは思いますが、1980年にウィーン国立歌劇場の引っ越し公演があり、これで終戦後主だった歌劇場、楽団のほぼ全部が出そろったことになり、一流のクラシック音楽の消費国に仲間入りしてそろそろ日本の聴衆も受け身一辺倒から次の段階へ進む時期だったのかもしれません。
中学くらいの頃、音楽史の各時代について短い文章を集めた本を図書館で見つけて読み、知らないうちに結構刷り込まれていました。リストについて、ショパンのピアノ曲と比較して演奏技術を披露することを主眼としていて内容が薄いという論調でした。それはリストの主に初期作品に対するショパンの見解を基本にしていたようで、以後かなり影響されました。しかし、リスト(1811 - 1886年)は75歳まで生きているので、創作時期も長くに渡ります。また晩年は助祭か何かの叙階(叙階と言うのかどうかわからないけれど)を受けて、宗教的な作風に傾斜しています。
ピアノ・ソナタ ロ短調は1853年に作曲され、シューマンに献呈された大作・問題作です。単一の楽章で、下記のような速度表記が付けられています(CDは1トラックだけの場合も多い)。上記のような評論本の影響で、リストはあまり聴いていませんでしたが、昨年12月以来この曲に強烈に惹かれています。何度となく聴いていながら曲の全体像が把握できないというか、覚え難い状態のままです。よく分からないけど、圧倒されるといったところです。
Lento assai - Allegro energico - Grandioso - Andante sostenuto - Quasi adagio - Allegro energico - Piu mosso - (Cantando espressivo) - Stretta quasi Presto - Presto - Prestissimo - Andante sostenuto - Allegro moderato - Lento assai
ホロヴィッツ晩年の録音であるこのCDは演奏時間が30分で、アルゲリチより4分以上長くなっています。もっとも、ポゴレリチは約33分ともっと長い演奏時間です。ひびが入ったかどうかはともかく、若い頃の演奏とは当然違っています。しかし、ドギツイというか濃厚というか、ますます曲の全容が分からなくなる演奏です。それでも圧倒的に注意を喚起させて振り返り続けさせられる演奏です。あまりコメントする言葉が見つかりませんが、老境に入って衰えたとしてもその年齢での聴きどころがある巨匠であるのは確かだと思いました。
ちょっとした短い文章でも、若い頃に読んだものは結構影響力があるものだと思いました。今日で五月が終わります。今年の五月は天候と同じく不快な日々が続き、例年以上に散漫に過ぎました。こんな気分の時に、シューベルトの「影法師」とかリストのピアノソナタが浸みわたるような気がします。リストのピアノソナタも生で聴いてみたい曲です。