ブルックナー 交響曲第5番 変ロ長調(1878年ノヴァーク版)
ゲルト=アルブレヒト 指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(1995年11月20,21日 プラハ芸術家の家 ドヴォルザーク・ホール 録音 Exton)
ゲルト=アルブレヒトは、1993年~1996年の間チェコPOの首席指揮者でした。チェコ人以外が同オーケストラの首席に就くのは初めてのことで、珍しさや録音でのレパートリー拡大の期待もあって注目していました。日本のキャニオン・クラシックスからアルブレヒト指揮のチェコPOで、ブルックナーの交響曲のシリーズ(第4、7-9番)が進行していて、確か第4番の新譜が出たところでアルブレヒトが突如辞任してしまいました。この第5番は辞任する少し前に録音されていました。キャニオンから先に発売された第4番は、1995年11月の22-24日の録音なので、今回の第5番と連続して収録されました。第5番もキャニオン・クラシックスから既に発売されていたと思い込んでいたましたが、2003年にExtonからはじめて発売されたようです。なお第3番も同時期に録音だけはされていたはずです(レコ芸の速報で読んだ記憶があります)。
アルブレヒトは、このCD発売後の2004年2月に、ブルックナーの交響曲第6番を振ってチェコPOに復帰客演しています。そのライブ録音もExtonから出ています。そういうわけで、中断していたアルブレヒト・チェコPOのブルックナー・チクルスも復活する可能性も出てきました(もっとも、0、1~2番は最初から録音する予定があったかは不詳)。元々辞任したのは政治的な環境が大きな原因だったので、復帰の演奏会は大成功だったので期待できます。
①18分50,②17分35,③13分42,④22分46 計:72分55
このCDの演奏時間は上記の通りです。第5番はハース版とノヴァーク版の差異がほとんど無く、改訂版を除けば同曲異稿の問題もありません。先月のアイホルンとリンツ・ブルックナー管の80分59と比べるとかなり短めです。またヴァントやヨッフムと比べても短い演奏時間で、ヘレヴェッヘとシャンゼリゼ管の73分36よりもさらに短いという結果は少々意外です。特に今世紀に入ってからのブルックナー演奏の傾向を先取りするようなスタイルです。ただオーケストラは、特に少ない編成にはしていないようです。CD付属の解説によると、ビロード革命後、この時期のチェコフィルには名手も多く、オーケストラの状態は良かったということです。90年代録音に録音されたアルブレヒトとチェコPOのブルックナーは、他に第8、9、4番を聴きましたが、この5番が一番印象深いものでした。
レコード芸術別冊の「 月評特選盤1980-2010 交響曲編・下巻(1993-2010年) 」の中に、アルブレヒトのブルックナー録音は1993年の第8番1点だけが特選に挙がっていました。該当期間には最初に発売された第9番、第三弾の7番、4番があるもののいずれも特選にはなっていませんでした。余談ながらこの時期の特に後半は、ブルックナーの録音と言えばヴァント、朝比奈の録音が多数あって、かなりの数が特選になっています。評者は2名なので、その人選如何では推薦の傾向も変わるかもしれないので、特選(2名ともに推薦とする)ではないからといって決定的に劣るとも言えないはずです。
特選になったアルブレヒト・チェコPOの第8番のコメントの中には、「躍動感」という言葉が目立ち、ブルックナー演奏に新風を吹き込んだと評されているのが印象的でした。この第5番のCDも正にそういう演奏だと言えます。重苦しいと感じさせることはなく、ひたすら美しい演奏です。その分壮大さ、高揚という面では物足らないと感じられ、そこが好みの分かれるところだと思いました。また録音も優秀で、ブルックナー的響きの魅力を保ちながら、曲の姿が克明に現すCDです。この時期のキャニオン・クラシックスの録音にノイマンとチェコPOのマーラーの交響曲もあります。気のせいかそのシリーズよりは落ち着いた音響にきこえます。
アルブレヒトは読売日響の常任指揮者に就任して、ベートーベン等の録音も残しています。桂冠指揮者になっているので今年の2月も来日しているので何とか生で聴いてみたい一人です。