昨日は阪神高速道路8号京都線の延伸部分が開通して、稲荷山をぶち抜いたトンネルとつながりました。暫定2車線(片側1車線)ながら、途中鴨川西出入口も出来て、十条河原町に直接出られるようになりました。現在の状況を考慮して派手な式典は自粛されたそうで、通常なら3世代(爺さんから孫まで)で渡り初めとかいろいろセレモニーもあったことでしょう。
さっそく今朝試してみたところ、宇治から京都市役所周辺まで一般道で60分はかかるところを、40分を切る所要時間になって感動的でした。計画ではこの高速は二条城の手前まで伸びるのですが、今後の事業は不詳です。財政だけでなく、景観の問題も大きいはずです。この高速も高架ですが、災害時にも健在で活躍してくれることを祈念します。
ブルックナー 交響曲第8番ハ短調・第1稿・1887年ノーヴァク版
ゲオルク=ティントナー 指揮
アイルランド国立交響楽団
(1996年9月23-25日 ダブリン国立コンサートホール 録音 NAXOS)
ブルックナーの交響曲第8番は1884年~1887年にかけて作曲されて、例によって一旦完成した後に改訂されました。1887年に指揮者レヴィへ総譜を送付したところ、(第2番をデソフへ送付した時と同様に)演奏不可能と返答されました。この時の状態が今回の1878年稿で、レオポルド・ノーヴァーク校訂により1972年に出版されて、第1稿とも呼ばれています。これの録音は他に、インバル・フランクフルト放送SOや近年シモーネ・ヤング指揮、ハンブルクPOやデニス・ラッセル・デイビス指揮、リンツ・ブルックナー管等があります。近年見直されてきています。実際聴いていると、1887年・第1稿の方が清澄な響きに感じられます。
ブルックナーの交響曲第8番と言えば通常演奏されるのは今回のCDの版では無く、第2稿・1890年版であり、これにはノヴァーク版とハース版があります。第1稿完成後、演奏不能と判定されたので、1989年から翌1890年にかけて改訂しました。この時の状態が第2稿で、これを復元するために校訂を手掛けたのがローベルト・ハースとレオポルド・ノヴァークです。復元、と書いたのは第2稿完成の後に、主にブルックナーの弟子であったヨーゼフ・シャルクによって改訂されたもの、いわゆる「改訂版」が1892年に原典版に先んじて出版されたからです。その悪名が高い(ヴァントが露骨に忌み嫌っているのも有名)改訂版に対する、「原典版」が、第2稿・1890年版ということです。第2稿・ハース版は1939年に、第2稿・ノヴァーク版は1955年にそれぞれ出版されました。
通常呼ばれるハース版、ノヴァーク版は、上記のような経緯でどちらも原典版という位置付けでしたが、第2稿・1890年版に基づいています。両者の違いは、ハース版の方が部分的に第1稿・1887年版のものを取り入れた折衷的な姿勢(これはノヴァークが批判的にそう呼んだ)であるのに対して、ノヴァーク版は第2稿を作成・改訂するときに削除された部分はその通りにカットしているということです。第8番の録音ではハース版も結構出回っていて、特にヴァントはハース版を使っていました。両者の具体的な違いはいろいろあるようですが、把握できていないので今回は省略します。
さて、今回の第1稿・1887年(ノヴァーク版)は、第2稿と比べて聴いだけで気が付く違いもあります。特に目立つのは第1楽章の終わりで、聴きなれた第2稿は静かに曲が止まって終わりになりますが、第1稿では別のコーダがあり、7番の1楽章のように高揚して曲が終わります。第2楽章のトリオも結構目立ち、続く2つの楽章も何となく風通しの良い音響です。第4楽章の終わりも、第2稿程は高揚せずに完結しています。
長々と版の違いを列記してしまいました。ブルックナーの作品にはこうした紛らわしい名称が飛び交うので、自分のための整理、どうせすぐ忘れるので備忘録のためにまとめています。そうした事務的な事柄とは別に、このティントナーの演奏はかなり素晴らしく、これほど清澄なブルックナーの8番は他では聴けないと思いました。後期ロマン派とかワーグナーといった影は感じられず、また力ずくで祝典に仕上げるようなところもありません。このCDの楽章ごとの演奏時間は以下の通りです。
①17分41②15分14③31分10④25分10 計89:28
CD1枚には収まらず、第4楽章を2枚目に収めて、第0番と併せて2枚で出しています。ゲオルク=ティントナーは1917年ウィーン生まれで、ユダヤ系だったのでヨーロッパを離れ、戦後はオーストラリアやニュージーランド、カナダでキャリアの大半を過ごしています。その最終の時期にナクソスへブルックナーの録音ができました。このCDを録音した時は79歳になっていました。最晩年にブルックナー演奏で突如注目される現象はクルト・アイヒホルンに似ています。演奏も似た要素があると思えました。NAXOSはよくぞティントナーを起用したものです。最初にティントナーの録音が出た頃は、珍しい版のCDだけは意義があってもオーケストラがマイナーなので、有名な曲はスルーしていました。今聴いて素晴らしいと思っても、10年くらい前も同様とは限りませんが、ちょっと惜しい気がしました。