ブルックナー 交響曲 第2番 ハ短調 (1872年稿 2005年ウィリアム・キャラガン校訂版)
マルクス・R・ボッシュ 指揮
アーヘン交響楽団
(2010年5月22,24日 アーヘン・聖ニコラウス ライブ録音 Coviello)
4番、3番の第1稿に引き続きマルクス・ボッシュとアーヘンSOによるブルックナーの交響曲第2番・第1稿です。このシリーズの最新盤で、あとは1番他を残すのみです。曲自体が第3、第4の第1稿よりもシンプルで、ボッシュのテンポで引き立つように感じられ、これら3つのCDの中で一番魅力的だったと思いました。前半の1、2楽章は速め、後ろの3、4楽章は遅めというテンポで、特に第4楽章が特徴的です。
交響曲第2番・第1稿には、他に1873年稿というのがあり、今回の1872年稿と同様に、ウィリアム・キャラガンにより復元されたものですが出版はされていないようです。かつて、クルト・アイヒホルンとリンツ・ブルックナー交響楽団によって録音(1872年稿と2枚一組)されています。1872年稿はブルックナーが最初に完成させた姿で、デゾフに試演してもらっています。その指揮者デソフの助言により改訂したのが1873年稿で、その稿によって作曲者自身の指揮によってウィーンで初演しています。両稿の違いは、スケルツォ楽章が入れ替わって3楽章に配置されている点と、全般に短縮されていることです。スケルツォが3楽章に来るのは後の1877年稿のハース版、ノヴァーク版に引き継がれます。
* ブルックナー 交響曲 第2番 1872年稿・ウィリアム・キャラガン校訂(2005年出版)
第1楽章 Ziemlich schnell
第2楽章 Scherzo: Schnell
第3楽章 Adagio: Feierlich,etwas bewegt
第4楽章 Finale: Mehr schnell
このボッシュ盤のトラックタイムは以下の通りです。過去に取り上げたブルックナー第2番の第1稿のCDと比べて、一番短い、速い演奏です。ただ、第4楽章はそうでもなく、第3楽章もアイヒホルンよりはゆっくりという配分です。
①17分45,②10分0,③17分44,④20分52 計:66分21
ヤング(2006年)
①20分40,②10分47,③19分32,④20分23 計:71分22
アイヒホルン(1991年)
①19分40,②10分59,③15分42,④20分55 計:67分16
これらの他に、第1稿・1972年稿の録音としてはゲオルク・ティントナー指揮、アイルランド国立SO(1996年録音・Naxos)があり、交響曲第3番、第4番に比べて初期稿・第1稿の録音はまだ少数です。今回のボッシュはこの曲・稿を録音している中で一番若手になります。
交響曲第3番の初演は、第2稿で作曲者ブルックナーの指揮で行われて大失敗でした。それに比べて第2番の初演は、同じくブルックナーの指揮で演奏されてかなり好評でした。どちらの曲も、最初に完成した状態の第1稿(2番:1872年稿,3番:1873年稿)では初演されていないのが興味深いところです。演奏者側、指揮者から演奏不能とか、長すぎる等の批判があったからです。交響曲第2番は、最近の演奏でも、第2稿・1877年ノヴァーク版を使うものが多く、室内オケを用いたトーマス・ダウスゴー盤もそうしています。ヴァントは、第2稿・1877年ハース版を用い、交響曲第1番では晩年に改訂されたウィーン稿を使う等、作曲者生前の最終判断を重視しているようです。今回のボッシュは、第1楽章を聴いた時は、コンパクトになった第2稿ノヴァーク版の方が合っているのではないかと思えましたが、後半の楽章ではテンポを変えていました。指揮者によって、それぞれ考え方ありますが、ボッシュが今後どの版、どういう演奏をするのか興味深いと思いました。
交響曲第2番は次の第3番とともにワーグナーに提示して、どちらかを献呈させてほしいとい頼み、ワーグナーが第3番の方を指定したという経緯があります。当時のウィーン音楽界はハンス・リックとブラームスとリスト、ワーグナーに二分されるような構図で、ブルックナーはワーグナー派ということになっていました。現代からみれば、ブルックナーの交響曲の響き(というか旋律、リズム)とワーグナーの楽劇の響きはちょっと隔たりがあるように感じられます。さだまさしの歌に「交響楽(シンフォニーと読ませる)」というタイトルがあって、「あなたがワーグナーのシンフォニーを聴きはじめたのが」云々という歌詞が出てきます。また「飾ることを覚えた」という歌詞もあり、その飾ること(表面というニュアンスも感じられる)とワーグナーの音楽を関連付けていました。それの適否はともかく、その歌でワーグナーとブルックナーを入れ替えると歌が成り立たなくなると思えます。