マーラー 交響曲第6番 イ短調 「悲劇的」
ベンジャミン=ザンダー 指揮 フィルハーモニア管弦楽団 (2001年5月録音 Telarc)
これは国内盤では出たことはなかったはずで、音楽学者でもあるベンジャミン・ザンダーはどうも日本での人気、知名度は低いままです。ザンダーとフィルハーモニア管弦楽団のマーラー・チクルスは他に1,3,4,5,9が出ていました。以後の録音は中断しているようですが、最近ブルックナーの第5交響曲の録音が出ています。ブルックナーの方も録音計画があるのかは不明です。
このCDは近年多く見られるライブ録音ではなくセッション録音で、マルチチャンネルのSACDです。この10年程の録音の中でも非常に優秀な音質で、その点で特に終楽章が聴きどころです。Telarcレーベルは、ドボナーニやプレヴィン等のアメリカのオーケストラとの録音が多く、優秀な録音という評判です。ただ、ジャズ等他のジャンルも出すレーベルです。また、終楽章がorijinal versionと、revised versionの2種類の版が収録されています。したがって、トラックで再生する順序を変えれば初演時の版を聴くことができます。また、ザンダー自身による第六交響曲の解説CDも付いています。
演奏も精緻で、楽譜に刻まれた音を余すことなく克明に再現しようとするような印象で素晴らしいと思いました。ただ、家の梁というか、船体の通し柱のように、この曲に対する根本、強い意志のようなものがあまり感じられないような気もしました。抽象的な表現ですが、例えばバーンスタインのマーラーは大変評判ですが、その理由の一つにそうした根本的な姿勢というのが貫かれているかのようなスタイルの統一があるのかもしれないと思えます。と言っているものの私筆者は、あまりバーンスタインのマーラーは聴いていない(特に再録音)のでいいかげんなものです。そうは言っても、このザンダーの演奏は、自分の好みとしてはかなり好きな部類で、ベルティーニ、ギーレン、テンシュテッド等に並びます。
1980年代に、作家の名前は忘れましたが、誰かのエッセイでマーラーの交響曲を題材にしたものがあり、マーラーは演奏スタイルの許容の幅が広く、ほとんど無制限で、こんなマーラーは駄目だと決めつけるのはナンセンスだという趣旨だったと記憶しています。違う性格の、方針の演奏が複数あればそれだけ曲を楽しめるというのはマーラーに限った話ではないと思いますが、確かにマーラーの場合は最初少し聴いただけでこれはダメだと思えるような演奏は滅多に無いのではいかと思えます(実は鈍感さが関係しているのかもしれませんが)。以前、マタイ受難曲で「ベスト4とか五指に入る録音」というテーマで投稿したことがありましたが、マーラーの場合は自分が特に好きな第6番でもそれだけの数に絞るのは困難です。
5月のマーラー第6交響曲シリーズは今日で終わりになります。通常、1か月で同曲異演を取り上げる時は4種類紹介しているはずですが、今月は1回多くなってしまいました。5月31日は、先日のマリアの祝日の内、「聖母の訪問」で、バッハの有名な教会カンタータBWV147「口と心と行いと生きざまもて」(コラールが超有名な「主よ人の望みの喜びよ」)がタイムリーでしたが、個人的にあまり好きな曲ではなく、マーラー第6番を持ってきました。ブログタイトル通り、ちょっとしぶとい選曲でした。