のだめのもう一人の主人公と言っても良い千秋真一が初めてオーケストラの指揮をする曲が、ベートーベンの第7交響曲になっていました。鋭敏な耳で容赦なく団員にダメ出しをする様子は、ちょっと何様?という気もしますが、現実のプロオケならあんな光景は無いのだろうと想像していました。
イタリア人指揮者グイド・カンテルリは、1920年4月生まれで1956年11月に36歳で飛行機事故で亡くなりました。戦中はナチスドイツの捕虜になった後脱走してレジスタンスに身を投じながら生き残りました。パリからニューヨークへ飛び立った直後の事故らしく、まさかそこで人生が終わるとは誰も予想していなかったはずです。ジュリーニ、バーンスタイン等と同世代なので、生きていれば音楽界の様子も違ったものになっていただろうと言われています。(千秋のような飛行機嫌いはこういう場合は身を助けたかもしれません) (写真は宇治市内、宇治川に架かる吊橋)
・ベートーベン交響曲第7番 グイド・カンテルリ指揮 フィルハーモニアO(1956年録音)
36歳の若さで亡くなりながら、カンテルリはその亡くなる年に録音した第7交響曲の他に未完成交響曲、ブラームスの第1、3交響曲、メンデルスゾーンのイタリア交響曲、モーツアルトの29番の交響曲等いくつかの素晴らしい録音を残しています。彼は、コンサート、録音を問わずリハーサルでは一切妥協なく、ダメな部分だけを細切れにして録音し直すのを嫌い、かなり長い部分を最初からやり直したと伝えられています。当時、フィルハーモニア管弦楽団は戦争や人種問題(ナチスの政策)で活動の場を失った優秀な演奏者を集めて構成されていて、ホルン奏者のデニス・ブレインのような人も含まれていました。ところが、カンテルリの完全主義的な、執拗なリハーサルにねをあげてしまう程だったそうです。
カンテルリのベートーベン第7交響曲は、先日のクレンペラーとはうって変って颯爽としたテンポで、奔放な水の流れのような演奏です。しかし、オーストリアの古い巡礼歌の旋律からとられたという3楽章のトリオは比較的ゆっくり演奏され、バランス感覚も豊かです。個人的には、1968年録音のクレンペラー盤と双壁で気に入っています。録音を聴いていますと、完成までうんざりするほどリハーサルを重ねたとは想像し難い空気で、笑顔で登場して一発でOKが出たような印象を受けます。音楽の世界でも人真似や、どこかできいたことがあると思わせるような演奏ならダメなので、ピリオド楽器の団体の影響力が大きい現代ではこういう演奏を聴く機会は希少だろうと思えます。